約 220,414 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/388.html
「な、何なのですかぁぁぁ!?」 背中に装着された、ビームによる光の翼=M・D推進器をフル稼働させ、最大加速を行う1体の神姫。 「マオチャオ……殺…す…!」 そしてそれを地獄の業火に叩き落さんと猛追する、漆黒の翼。 その眼に宿るは憎悪、純粋に想うが故の儚く悲しい怒りの炎。 「ティキは怨まれる覚えはないのですよぉ!」 ねここの飼い方・光と影 ~ニ章~ 『くっ、何でこんな事になっちゃうんだ!?』 思わず彼の口からは、怨みにも似た言葉が飛び出す。 高校生なのだが、まだ若干あどけなさの残る顔つき、メガネをかけておりその奥には優しげな瞳が宿っている。 その彼=藤原雪那にして今回は相手に怨み節を言う事になっていた。 『ティキ、相手も早いけどあの大型のユニットじゃティキみたいな細かい機動は無理なはず。もっと動いてかく乱して!』 「わかってるのですけどぉ……思ったより動くのです……よぉ!?」 2人が今後の展開についてやり取りする間にも、果断なく攻撃を仕掛けてくる相手の黒い神姫。 レーザーライフルの先端からレーザーブレードを展開、直線的に体当たりを仕掛けてくる。 ティキはその驚異的な運動性でブレードを回避、だがそのまま突進してきた相手の翼と接触。ぐらりと一瞬大きく体制を崩す。 一方相手も翼を損傷し多少の挙動の乱れを見せるものの、元々の重量が違いすぎるためあまり深刻なダメージは負っていない。 そして2人が困惑しているのは、何より相手の攻撃方法だった。 自己の損傷も厭わない無謀な特攻戦法。それはまるで旧日本軍の神風特攻を連想させる。 いくら仮想空間とはいえ、此処まで過激な戦法を取る神姫は滅多にいない。 それに……と、ティキに指示を出しつつ雪那は慌しく回想する。 (さっきまでの戦闘だとこんな事してなかったのに、何で僕とティキの時だけこんな事するんだ!?) 流石に声に出すには躊躇されたが、そう思う他に無い。 その日、雪那とティキはすっかり恒例になった月2回のエルゴへの遠征を行っていた。 「よーし、エルゴの皆さんにティキの新しい力を見せてあげようね!」 「ティキと~っても頑張っちゃうのですよぉ☆」 まるで楽しい遠足に行くようなハイテンション気分の2人。足取りも軽くエルゴの店内へと吸い込まれていく。 「こんにちは店長さん、ジェニーさん」 「こんにちわですぅ」 軽やかにハモりながら挨拶を掛ける2人。此処数ヶ月通いつめており、すっかり常連となっている。 「やぁ藤原くん、いらっしゃい。ティキちゃんもこんにちは」 店長さんがにこやかな笑顔と共に挨拶を返してくれる。 「今日はまずバトルかい? 例のユニットをお披露目にきたんだろ?」 ニカっと爽やかに、2人の来た目的を見抜く店長。すっかり顔なじみである。 「はい! その節は色々とありがとうございました。それじゃ早速行ってきます!」 その常連ならではの対応の嬉しさを噛み締めつつ、2人は2Fのバトルスペースへと上がってゆく。 「何時も盛況だねぇ、しかもレベル高いし」 「ですぅ。見てるだけでも勉強になるのですよぉ☆」 マルチスクリーンに次々と映し出されていく試合映像に一心不乱に見入っている2人。 彼らの地元地域でも武装神姫は盛んではあるが、平均レベルで言えばエルゴには今ひとつ及ばない。 尤も其れは、エルゴに出入りする人々の平均レベルが抜きん出ているのではあるが。 卵が先か鶏が先かのようなもので、入り浸りになっている内に自然と鍛えられ実力を身に付けた者、噂を聞きつけた他地域の腕自慢、取り扱いの少ない希少パーツを求めて辿り着いた者、初期から武装神姫関連を扱っていたため極初期から通い続けているテスター上がりの古強者ete…… 強いて言うならば50年以上昔にベーマガ紙上のスコアランキングで上位を独占した人々が集っていた、伝説の巣鴨キャロットのような状態だろうか…… 兎も角、2人はすっかりその場の雰囲気に呑まれ、かつ満喫していたが、やがて1つの試合がその目に止まる。 それは、黒いアーンヴァルと白い通常のアーンヴァルが激しい空中戦を繰り広げている映像だった。 黒いアーンヴァルが背部に装着しているユニットが通常のものではなく、アーンヴァル用パーツで組み上げられた、まるで重戦闘機のようなシルエットになっているのだが、それが喉の奥に挟まった魚の小骨のように記憶に引っかかる。 「ねぇティキ。あの黒いアーンヴァルの武装なんだけれど、どっかで見た記憶ないかな? なんとなく見覚えがあるんだけれど思い出せなくて……」 う~ん、と軽く腕組みをして考え込む雪那。 ティキも真似するようにう~んと腕組みをした後、頭に電球がピカーンと光ったかのように明るい表情になって 「あ、ねここちゃんのシューティングスターにソックリなのですよぉ♪」 「なるほどー、言われてみると同じだね。ティキよく覚えていたね」 「えっへん、なのです♪」 ちょいん、と胸を反るティキ。威張っているようだが、その実とっても愛らしいポーズを取っている。 「……っと、勝負が着きそうだ」 スクリーンには黒いアーンヴァルが、相手のウィングをレーザーライフルで撃ち抜いた瞬間が映し出されていた。 飛翔する為の羽をもがれ、無残に地上への接吻を強要される白いアーンヴァル。 こうなっては彼女に勝ち目は殆どなくなる、空戦用の機体が肝心の飛行能力を失ってしまっては意味がない。 程無く相手のマスターのギブアップ宣言で試合は終了。 相手に対して丁寧に一礼をしてから、フィールドを去ってゆく黒いアーンヴァル。 束ねられた長髪が風になびき、それだけが静止した場面の中での唯一の動きといえた。 「マスタ、ティキはあの人と戦ってみたいのですよぉ☆」 「え、ティキから戦ってみたいだなんて珍しいね」 ティキは、んー……と唇に指先を軽く当て、考えるしぐさをしてから 「あの人の戦い方とか、ねここちゃんに似てる感じがするのですよぉ。なのでティキにとっても参考になるかなと思ったのですぅ♪」 「なるほどね。なら胸を貸して貰うつもりでどーんと行っちゃおうかっ!」 「はいですぅ!」 おー! とガッツポーズを取って気合を入れる2人。近くにいた人たちは一瞬何事かと振り向くが、それもすぐに沈静化。 『それじゃ、宜しくお願いしますね』 『宜しく』 相手はエルゴ内の人ではなく、同一エリア内のセンターからアクセスしている人らしかった。 簡単なバトル手続きをした後、通信でマスター同士が軽い挨拶を交わし、戦闘準備に入る。 「……お手柔らかに」 「はじめまして♪ お手合わせお願いしますですぅ」 ……その時2人は気づくべきだったろう。 ティキの姿を確認した瞬間、先程まで氷の様な冷徹な表情を浮かべていた神姫=ネメシスの瞳に、溶鉱炉の炎にも似た光が宿ったのを…… 「ひゃっ!? あ、あぶなすぎるのですよぉ…!」 またしても特攻を仕掛けてきたネメシスを辛うじて回避するティキ。 今度は翼ではなく、本体ごと体当たりする勢いで突っ込んできたのだ。いくら質量に大きな差があるとは言えその戦法は自殺的行為。 今の攻撃もティキの驚異的な運動性能でなければ回避できないほどの鋭く深い=それはつまり危険の大きい自殺的な攻撃。 2人がつい先程まで観戦していたバトルでネメシスは、冷静沈着かつ確実に戦闘を進め、云わば『華麗な』高速戦闘を行っていた。 それが今回の特攻戦法である。2人が混乱するのも無理ないと言えた。 『ティキ、低空に逃げるんだ!』 「了解なのですぅ!」 MD推進器をフル稼働させ、まるで地表に落下する隕石のように急降下! 特徴的な光の翼が更に大きく強く羽ばたく。 それに追従し、執念深く追撃をかける漆黒の翼。 (低空であんな事をしたら地面に激突しちゃうはず。さっきまでみたいには動けないだろうから、その分ティキが有利なはずだ) 「マスタ! 何か距離が開いてきてるのですよぉ!?」 『え……』 ティキのその悲鳴のような報告にはっとなってスクリーンを凝視する雪那。 そこにはレーザーブレードの展開を解き、ティキの少し後方にピタリと付けたネメシスの姿。 「消し飛べ……私の前から、消えろ!」 ネメシスの呟きと共に、いや呟きが掻き消えるほどのレーザーライフルの発射に伴う甲高い駆動音と共に、2本の死神の槍がティキを破壊せんと一直線に猛進する。 2人とも最大速度での急降下中だったため、ティキは迅速な回避行動が殆ど行えない。 『ティキ、光の翼だ!』 「光の翼なのですぅぅぅぅ!」 次の瞬間、ティキの周囲は膨大な熱量の嵐に支配される。 やがて熱量は拡散し、焼き尽くされた空間に現れる影。 「……大丈夫なのですよぉ♪」 そこには自らをビームの鎧で包み込み、ダメージを打ち消し今だ健在なティキがいた。 背中より突き出た2門の攻撃ユニットは跡形もないものの、本体へのダメージは軽微。 ティキの両肘に装備されていたビームシールド発生装置と背中のMD発生装置を共振させ、4つのビーム発生装置で1つの巨大なビームのカーテンを演出し作り出したのだ。 だがそれは…… 「獲物……掛かった……!」 ティキの眼前には既にゼロ距離にまで接近してきたネメシスの姿。 射撃直後にレーザーブレードを展開させ、砲撃の陰に隠れる形でスピードを殺すことなくそのまま接近していたのだ。 ネメシスのブレードとティキの光の翼が、華麗で危険な火花を散らしながら激しくぶつかり合う。 そして2人は、その形状を構築しているフィールド同士が激しく干渉しあい、結果2人の刃はそれ以上押すことも引くことも出来なくなる。 「え?、きゃぁぁぁぁぁ!」 突如フィールドに響き渡る百舌のような小鳥の悲鳴。 ティキの愛くるしい顔に、ネメシスの手が覆い被さり、メキョメキョと気味の悪い軋みを立てさせている。 それは、ネメシスが己のアイアンクローでティキの頭部を粉砕しようとしている悪夢の如き光景。 ネメシスは干渉現象でお互い身動きが取れなくなった瞬間エトワールファントムから分離し、光の翼のもっとも薄いポイントをその腕のみで強行突破してティキの顔へと到達したのだ。 「その顔……醜く潰れろぉ!」 戦闘前の憂鬱な表情は過去の物となり、禍々しい狂気の笑みを浮かべながら、尚ティキの顔を粉砕せんと締め上げるネメシス。 だがメキメキと内部機構が異音を立てているのはティキの顔だけではなかった。 通常の武装神姫の手は然程パワー、耐久力の高い物ではない。 しかもビームを強行突破した時点で外装にもかなりの傷を負っている。そんな状態で耐久性の高い頭部を握りつぶそうというのだ。 ティキの顔がミシミシと歪む都度、ネメシスの指先からも異常パルスの閃光が走り、人口筋肉が付加に耐え切れず裂け千切れ、断絶の悲鳴を上げる。 「や……やめるのですよ……ぉ……っ……」 必死にもがくティキだが、光の翼は既に制御不能に陥っており辛うじて動く手で抗うしか方法がなかった。 だが、その圧力にゆっくりと力を失ってゆくティキ。その抵抗も空しく、限界を超えた頭部が粉砕されんとした、その時 「試合終了、フィールドアウト、WINNER ティキ」 フィールドに響き渡るジャッジAIのアナウンス。 同時に強制リングアウトされ、ポリゴン粒子となって消えゆくネメシス。 「……た、助かったのですぅ……?」 『そうみたい……かな……?』 後に残されたのは、急激な事態の変化がいまいち飲み込みきれず呆然とするティキと雪那の2人だった。 「……どうして、あんな事をしたの?」 少女の透き通った声が部屋に響く。だがそれは可憐と言うには余りにも負の感情が大きすぎて。 「………」 「ダンマリなのね。……まぁいいわ。もう二度としないと……誓いなさい」 「………」 「返事は?」 「……イェス、マスター」 短いその会話。 少女は果たして、気づいたのだろうか。 その神姫……ネメシスが、初めて彼女を、名前以外の敬称で呼んだという、その事実に…… 続く(18禁注意 トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1189.html
前へ 先頭ページへ 次へ 第十六話 共鳴 着地する。 よく整備された滑走路のアスファルトが、その下の整地用に敷かれた土と一緒に飛び散る。小さなクレータがひとつ出来上がった。 長大な滑走路の向こうには、飛行船が発進した森があって、滑走路のところだけが開いている。終端部にはやはり、地下の格納庫へとつづくであろう大きなエレベータハッチが口を開けていた。 ――開いている? “前方ハッチより反応多数。ラプターです” エイダの警告。 直後、いくつもの光点がハッチから飛び出してくる。十、二十、三十、四十――、まだまだ増える。 「いまだあれほどの戦力を隠し持っていたとはな」 ビックバイパーアタッチメントを纏ったルシフェルが後方から追いついた。その後ろにはファントマⅡを装備したネイキッドの部隊。 「こっちの戦力は」 「私とお前を除いて三十だ。数だけなら圧倒的に足りないな」 話している間にも、ハッチからは次々とラプターが出てくる。 「エイダ、奴らの総数は」 “聞かないほうが賢明です” 人間くさい答えをするようになったな、とクエンティンは思う。 “単純物量差は十倍以上です” 「聞かなきゃよかったな」 「どっちにしろ、ぶっ倒さないと進めないんでしょ」 スラスターの出力を溜める。青白い余剰出力が羽の間からこぼれる。 「やるわよ」 「ふっ」 口の端に笑みを浮かべて、ルシフェルも構える。 「この場での戦力は正直に言って、私たち二体だけだ」 「一人頭だいたい一五〇体潰せば良いわけね」 クエンティンの背中の空間が展開し、細長い板状の物体がトランプを広げるように現れる。ホーミングミサイルである。エイダがあらかじめ解除しておいてくれていた。 左手を前方に掲げ、複数の標的をロック。 ミサイルの発射が引き金になった。三十二体と三百体超の神姫が、同時に突撃を開始する。 ◆ ◆ ◆ 「おかしい」 命令や報告がひっきりなしに飛びかう潜水艦のCICで、全戦域の概況を一括表示する正面スクリーンを凝視しながら、鶴畑興紀はつぶやいた。彼は指令席に座り、デスクに両肘をついて顔の前で手を組んでいる。 「どうしたの」 その傍らに立っていた理音が訊く。 状況は素人目に見ても順調であるはずだった。いや、順調すぎて気持ち悪いくらいであり、何か突拍子もないことが起こるのではないかという予感が理音にはあった。 「上手く行き過ぎてるのが怖い?」 「そうじゃない」 興紀は首を振る。眼鏡を取り、眉間を抑えて深呼吸を一つすると、いつのまにかいなくなっていた執事がタイミング良く戻ってきて、湯気の立つブラックのコーヒーを置いた。 コーヒーを冷まさず一気にあおる。興紀が飲めるくらいの温度にしてあるのかもしれない。空になったコップを執事が持ってゆく。 「向こうの戦力の浪費が激しい」 それが自分の問いに対する答えであると理音が気づくのには少し時間がかかった。興紀の動作に見とれていた。 「それは……、良いことなんじゃなくて?」 「そうなんだが」 トントン、とデスクを指で叩く。 「引っかかるんだ。向こうが全力で抵抗していないように感じられる」 「切り札があるとか――」 「これは段取りの決められたアクション映画じゃない。切り札があるなら最初から使う。最初から全力でやる」 「突入部隊からは。人間のほうの」 「まだこれといった報告はない。多少の交戦はくぐっているが、おおむね順調だ。さしたる抵抗もせずに敵兵があっさり降伏したところもあった。調べた結果が先ほど来たが、敵兵士はそのほとんどがはした金で雇われた傭兵だったそうだ」 「じゃあ、虎の子の飛行船団が落ちたからかしら」 「たしかにあれは奴の作戦の要だが、それならば撃墜された時点で全面降伏するはずだ。いまもって抵抗を続ける意味の方が不明瞭になる」 つまり、抵抗を続けている理由が立つと抵抗の弱さが疑問になり、抵抗を止める理由が立つと今度は抵抗を続けている事実に首をかしげざるをえない、ということである。 「現に抵抗が続いているのだから、まだ諦めていないんじゃないの」 「アーマーンを動かすのか。だがジェフティがこちらの手にある以上、起動することはできないだろう。できたとして、先日捕獲した折にやっているはずだ。おそらくクエンティンと融合していることが起動を阻んでいる要因だ。だから私もクエンティンを戦力として送り込めたんだ。人為的に分離させることは不可能なようだからな」 顔の前で手を組み、ふたたび正面スクリーンを見つめる興紀。 「向こうの行動がそれぞれ、微妙に噛み合っていない。何かがおかしい」 息をつく。今度はため息だった。 「ただの時間稼ぎか? 私は何か思い違いをしているんじゃないのか……?」 デスクに置かれた書類を取る。 例のジェフティ、アヌビス、そしてアーマーンの関係を描いた簡略図であった。狼、アヌビス神のアイコンとヒヒ、トート神のアイコン、その真ん中にある、円形の、島らしきアイコン。アーマーン。中心には逆三角形の中抜きがあり、さらにその中にこちらを睨むような半円がある。半円の周囲には円周が一本引いてあって、その円周上には点が一つある。 興紀の背筋を悪寒が走った。 「これは、島ではないのか――?」 『D部隊がアーマーンの指令センタードア前へ到達!』 オペレータの一人が興奮した面持ちで声を張り上げ、反射的に興紀は疑問を脇にやった。 「突入しろ。ブービートラップに注意だ。ノウマン以下中心メンバーの身柄は全員確保。不可能なら――射殺しろ」 すばやく命令を出す。オペレータが一字一句そのまま部隊へ通達。スピーカから部隊長の復唱が聞こえた。 予定よりも非常に早いクライマックスを、理音たちは迎えていた。 ◆ ◆ ◆ ミサイルの直撃を喰らったラプターがエレベータハッチの奈落へ墜落してゆく。 “進行エリアの敵、全滅。味方残存、十二” 「戦力の三割以上の損害。戦略的にはこっちも全滅ね」 二百メートル以上はあろうかという格納庫の穴をクエンティンは見下ろす。 ナトリウムランプの煌々とした照明がくまなく照らすが、飛行船はともかく、待ち受ける敵の姿がない。 「突入部隊が指令センターに到達した。メンバーは全員拘束されたそうだ」 戦闘後の斥候を終えたルシフェルが降り立つ。 「あれ、じゃあ、もうおしまい?」 「あっけなさすぎるがな」 ものすごく歯切れが悪いが、案外こんなものなのかもしれない、とクエンティンは思った。現実はそうドラマチックにはいかないものだ。 今までが劇的すぎたのだ。夜食を買いに出た道端で新型のプロトタイプと運命的な出会いをして、武装神姫の今後を揺さぶる大事件に巻き込まれて。 全てが終わった今となっては、貴重な体験をさせてくれた皆々様に感謝、そんな気持ちだった。 特にエイダに対しては。 「ねえ、エイダ」 無言。 「エイダ、さっきから戦闘サポートばっかりで一言もおしゃべりしてないけど、どうしたの?」 エイダは答えない。 すると、まったく唐突に、全チャンネルで通信が繋がった。 『こちら司令室。全員警戒態勢。非常事態だ』 「マスター?」 ルシフェルが眉に疑問符を浮かべて応答する。 「どうしたんです。中心メンバーの身柄は確保したのでは?」 『ノウマンが自殺した』 首の後ろのあたりに寒さが走ったような感覚をクエンティンは覚えた。 「ちょっとちょっと!」 通信に割りこむ。 「じゃあ別にいいじゃない。肝心の首謀者が死んだんでしょ? 警戒態勢しく必要なんてどこにも――」 『アヌビスの行方が分からなくなっている』 今度こそクエンティンはぞっとした。 『アヌビス、つまりデルフィのオーナーはノウマンに設定されている。オーナーが死亡、またはその他の理由で神姫とのコミュニケーションが恒久的に不可能になった場合、安全のために神姫のAIは機能の一切を停止して強制スリープモードに移行する』 そんなことは知っている。オーナーが知らなくても、武装神姫なら誰でもデフォルトで組み込まれている機能であり、知識だ。 『だが、デルフィが機能停止した痕跡がない。現在アーマーンの全階層を総動員で捜索しているが、まだ発見されていない』 「それってまさか、デルフィが自律駆動しているってこと?」 オーナーの束縛なしに。 『その可能性は非常に高い』 そんなことがありえるのだろうか。 オーナーの存在は、人間が考える以上に神姫にとってかけがえのないものだ。たしかに人側から見れば、「オーナーが死ねば神姫は強制スリープモードに移行する」だけなのだろうが、神姫にとってオーナーを失うということは即座に自らの存在理由の否定に繋がる。原則として、オーナーのいない神姫はありえない。神姫は神姫である以前にロボットであり、ロボットは人間に命令されることで存在理由とアイデンティティを発生させる。 命令する人間のいないロボットは発狂するのだ。 AIのなかった時代ならば、そうした人間とロボットの関係はあいまいで確立しておらず、ゆえにロボットの発狂などという現象は起こることもなかった。 しかし、AIは自ら考え行動する、意思を持ったロボットである。AIの誕生とともに、命令する人間との関係の確立はなくてはならない事項であった。命令する人間がいるからこそ、AIは安心して行動できるのである。 特に武装神姫はそのシステム上、オーナーと神姫、という図式で、他のどんなAIよりも「命令する人間」と「命令されるロボット」との関係を密にする。だからこそ複雑でフレキシブルな命令をこなすことができ、自ら学んで成長する、まるで人間のようなAIが生まれたのである。 オーナーの死亡等によるコミュニケーション不可能から行われる強制スリープモードは、発狂しないための安全策なのである。もしもこのプロセスが何らかの原因で実行されなかった場合、神姫は発狂する。 ではなぜ、オーナーのいない野良神姫がいるのか? これは、その神姫がオーナーのコミュニケーション不可能状態を観測していないからである。神姫の中では、オーナーが不在=オーナーの死亡とはならないのである。これが神姫のAIが画期的たるゆえんで、つまり解決しない問題(タスク)をほうっておくことができるのである。普通のコンピュータはタスクが解決しない場合、無限の思考ループに陥って大抵フリーズする。神姫にはそれがない。野良神姫はとどのつまり、命令待ちの状態で自ら判断して行動しているわけである。そしてオーナーとの密な関係のために他の人間の命令を聞かない(「命令を聞いた方が都合がよい」と判断した場合、命令に従うこともある)。まさに野良である。 発狂した神姫を、幸か不幸かクエンティンはまだ見たことがない。もしも自分のオーナーが、理音が死んだら――。そうふと思うだけで、たとえようのない不安と恐怖が押し寄せてくる。 では、エイダは? 彼女には―― オーナーがいない。 ではエイダは発狂しているのだろうか? どうもそうとは思えない。 「エイダ、アンタってさ――」 足元の奥深くから殺気を感じた。 「ひっ!?」 思わず短く悲鳴を上げてしまい、数センチほど浮いてしまう。 「どうした?」 傍らのルシフェルが手を伸ばす。 バシッ! 「っ!」 クエンティンの体に触れる寸前、ルシフェルの手は見えない何かに弾かれる。 ルシフェルは目を疑った。 クエンティンの全身のエネルギーラインが赤く明滅している。 「最下層、バラストタンク……」 独り言のようにぼそりとつぶやくのを、ルシフェルは聞いた。 「なに?」 「共鳴してる。エイダとデルフィが。すっかり忘れてた。二人は双子みたいなものだって」 寒さに震えるように、自らの身体をかき抱くクエンティン。 「アイツ、呼んでるわ。ちょっと行ってくる」 バースト。そのまま爆発的な急加速。衝撃波で吹き飛ばされるルシフェル。 「クエンティン!」 ルシフェルの静止も聞かず、格納庫の穴へ急降下。バラストルームへと続くルートがヘッドアップで表示。深い。地下七六〇メートル。島の底辺から太いシャフトでぶら下がっている、四つの丸い大きなタンクが立体映像で映る。 デルフィはそこにいる。クエンティンにはそれがわかる。 不可解なのは―― そこに、ノウマンの反応もあったことだ。 つづく 前へ 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/321.html
そのじゅうご・みっつめ「さあ反撃の狼煙を上げろ・3――ジジィと神姫――」 件の強化案にもあったのだが、どうも親父はこのジイ様――母さんの父親――に何らかのツテを求めていたらしい。 僕のジイ様は、趣味を仕事にしている人で、「息抜きと人生は同義語だ!」と言って憚らないダメ壮年だったりする。 はっきり言ってしまえば、親父のアップグレード版。……ダメさ加減が上位種って、マイナーダウンじゃなかろうか? そんなジイ様が趣味でやってる仕事ってのが、小説家だったりする。桜田柄今(さくらだ・つかいま)というペンネームで、『デヴォ探シリーズ』という連作ミステリを執筆している。かくいう僕はその一編すらも読んだ事はないけど、どうも好評らしい。 僕の主観だけで言わせて貰えば、こんないい加減なジイ様が作家だという事実に心苦しさを感じないでもない。はっきりと、端的に言ってしまえば、「他の作家先生たちに謝れ!」 という心境だったりする。 要するに、ダメ大人っぷりを目の当たりにする親類としては、そう言わざるを得ないくらいの特異なパーソナリティーの持ち主ということ。 まぁ、そんなジイ様は、そのシリーズモノのおかげかなんかで、玩具メーカーやその他色々なところにコネを持っていたりする。 親父はそこに目をつけていたらしかった。 今、僕とティキはチョット大きめな一軒家の真ん前にいる。 お屋敷とか館とか、そこまでの規模では決して無いけど、それでも一般的には『広い』と認識される一軒家。 まぁ立地条件が良かったと言うか悪かったと言うか、とにかく不便な所ではあるので、これくらいの広さがあっても、安く購入できたらしい。 決して大きくは無い門には『葉月』と彫られた表札が掛けられていた。 ここの家の家主は葉月総(はづき・そう)と言う名の60過ぎのジイ様で、オタク気質の持ち主。更に付け加えるなら、自分と趣味が合うからといって快く娘をその男のところに嫁に出したという逸話まで残す変人。そして、僕の亡父に武装神姫を進めた張本人。 つまり僕の、紛れも無く血のつながった祖父。母の父親。親父の言うところのお義父さん。 ……諸悪の根源。 いや、ジイ様のおかげでティキと出会えることが出来たわけだから、感謝すべきなのか? 兎に角、僕らは休日を利用し、わざわざ交通の便も少ないこんな僻地までやってきたわけだ。 田舎だけあって、庭も広い。いや、あくまで庶民感覚で。 それでもティキは感じ入ったらしく、しきりに感嘆の声を上げ、キョロキョロとあたりを見回した。 さすがにご近所さんで、これくらいの規模の個人宅なんて無いからなあ。一応新興住宅地だしね、僕の家の周りは。 十数歩も飛び石を歩き渡ったところで玄関にたどり着き、僕は呼び鈴を鳴らす。 待つこと数秒。 「よく来たな、ボウズ」 そのむやみやたらに勘違いした若作りファッションのジイ様は、ニカッと不自然に白い歯を見せて笑った。 居間に通された僕達は、なんだか居心地の悪さを感じていた。 何でこの家は神姫にお茶を運ばせてるんだろうね? 四体の神姫たちは手馴れた様子で僕らをもてなしてくれている。 で、当のジイ様は上座でどっしりと座っていたりする。 ……この家じゃこれが普通なのか? 「バアさんに三行半突きつけられてから、一人暮らしで何かと不便でなぁ。神姫たちが家に来てからすっかりと楽になったよ」 やっぱりこれが普通なんだ…… 「マスタ、ティキも手伝いした方がいいですかぁ?」 こっそりと僕に聞いてくる。それに対し、僕は小さく首を横に振った。 この状況が平素なものだとしたら、僕やティキが手を出すのは遠慮した方がいい。それこそ大きなお世話ってヤツだ。 「でボウズ。今日は何のようかね?」 ジイ様は緑茶を啜ると僕に笑いかける。 その笑顔は何処か邪悪めいていて、うがった見方なのを承知で言わせて貰えば、「ようやくお前もこっちの世界に来たか。それ見たことか、この隠れオタめ!」と言ってる様に感じられる。 「くっくっくっ。ようやくお前もこっちの世界に来たか。それ見たことか、この隠れオタめ!」 …………本当に言いやがった! 「しかし女に振られてからやっとこさ本性顕にしたつーのがなんとも情けないが」 止めまで刺す気か! 「大方ボウズの事だから、ティキちゃんの愛らしさを見てコロッと態度を代えたんだろ? 『萌ー』とか言って。……まったくムッツリだな」 言ってねーよ。更にいらんレッテルまで貼ってくれたよ、このジイ様! そこまで言うとジイ様はテーブルに用意されていた大福に手をつける。 「で、萌々エロボウズ。用件を早く言わんかい」 「誰が『萌々エロボウズ』か!」 「マスタは『萌々エロボウズ』なのですかぁ!?」 「ちっがーう!」 このジイ様は昔っから僕をこういう風にからかって遊ぶのが大好きだったんだよ。 普通孫にこんな仕打ちするか? 「相変わらずからかい甲斐があるボウズだな。……まぁ、ボウズがオレッチを訪ねて来た理由に心当たりもないわけではないが……どうせなら本人の口から聞かせてくれんか?」 人の悪そうな笑みを浮かべながら飄々と言ってのける。 実際敵いません。お手上げ。母さんがしっかり者なのも良くわかるよ。ホント。 反面教師がこうも間近に居るんじゃ、ああもなる。 「……武装神姫の、ティキの武装強化案。親父が頼んでいたパーツを受け取りに来たんだ」 僕はジイ様の目をしっかりと見据えて、はっきりと口に出していった。 ジイ様はニヤリと口を歪ませる。 「別に、ボウズにやってもいいけど、ありゃあボウズの手にゃ余るぞ?」 「それでも、譲って欲しい。親父がやりたかった事をやり遂げたい、から」 「旦那さんが最後に残した物を、無駄にするのはイヤなのですよぉ」 ジイ様は口元を歪ませたまま僕らをジッと見定める。 うーん、なんとも居心地が悪い。 おもむろにジイ様はお勝手に向かって声をあげた。 「おーい、ヒワよ。あのパーツを持ってきてくれ。アトリ、お前は例のメモを」 「畏まりました」 「了解です」 すぐさま返事が返ってきて、待つこと数十秒。 仲居さんの格好に、ウイングユニットを取り付けたアーンヴァルのヒワが、箱を抱えて飛んで来る。ホテルマンの制服を着て、アームユニット、レッグパーツを装備したストラーフのアトリがメモの束を抱えてやって来る。 先ほどから、ある意味珍妙な格好の神姫が四体、僕らを接客しているのだから、居心地だって悪いというものだ。 ……こんな趣向の持ち主だからバア様が出て行くんだよ。 心の中でそっと嘆息。 そんな僕に気が付いているのかいないのか、ジイ様は二体からそれぞれ持って来てもらった物を受け取り、それぞれに礼を言う。 その細やかさが何で生身の、それも肉親に向けられないのかな? 「さてと、これが修芳(あつよし)君から頼まれていた物だ」 そういって二体の神姫より受け取った物を、僕の前に差し出す。 ちなみに、修芳というのは親父の事。 「これと、先に届いていた演算ユニットで、修芳君の構想していたユニットは完成するはずだ」 ジイ様は滅多に見せることがない真面目な顔で言う。 「一応このメモには大まかな回路図が記されているが、間違いなくお前には理解できんだろう。それでも、これを持って行くか?」 「うん。それでも僕はこれを完成させる。させてみせる」 僕も、ジイ様に負けないくらいの気持ちを持ってジイ様に告げた。 「……わかった。持って行け。本当なら修芳君に代金を請求するつもりだったが、これは修芳君への弔い代りだ」 ジイ様は残ったお茶を煽るように飲み干した。 「……ところでジイ様」 「なんじゃい」 「演算ユニットって、どこ?」 「あ? アレなら修芳君がすでに持ち帰ったぞ」 親父が持って帰っているのか。うーん探して見るか。 だけど本当はこういうコネって、なんかズルしてるみたいで好きじゃないんだけど。 言い訳だよなぁ。 言い訳だけど。 言い訳に使いたくはないけど、親父の思いに答える為に、僕のくだらないプライドはこの際無視してしまおう。 その後、僕らはジイ様と食事をし、ジイ様の家を出るころにはすでに夕暮れ。暗くなるとこのあたりは本当に真っ暗になるというので、僕らはお暇することにした。 「ジイ様、ありがとう」 「ありがとうなのですよぉ♪」 僕らはジイ様にお礼を言うと、ジイ様は照れたような顔をして。 「イイんだよ。気にすんな」 とだけ言う。 「それじゃあな」 そう素っ気無く言うと、ジイ様はそのまま玄関の戸を閉めようとした。 が、その時、 「先生。私お見送りに行ってきます」 ヒワはジイ様にそう断わると、スーッと外へと飛び出す。 「そうかい? じゃあ頼むな」 そう答え、今度こそジイ様は玄関の戸を閉めた。 「別にまだ明るいから大丈夫なのに」 申し訳ない気持ちになって、僕はヒワに言った。 「いいのですよ。ここら辺は何も目印がないので迷いやすいのです」 「そうなのですかぁ?」 「はい。……それと、雪那様にお話もありまして」 僕とティキは顔を見合わせる。 「移動しながらお話しましょう」 ヒワはそう言うと進み始めた。 家の門を潜り、角を曲がったところでヒワが口を開く。 「雪那様。お願いが御座います」 金髪に和服、そしてウイングユニットを装着したその神姫は静かにそう言った。 「時折、本当に稀で構いませんので、たまにこうして先生を訪ねてきてはくれませんか?」 「え? いや、まぁそれは。別に構わないけれど……なぁ」 僕はヒワの言葉に答え、ティキに同意を求める。 「ティキはまたお爺さんと遊びたいのですよぉ♪」 ティキは元気良く答えた。 「有難う御座います」 ヒワは浮遊しながらも器用に頭を下げる。 ここで「なんで?」と聞くのは、鈍感が過ぎるか? 「……先生は奥様が出て行かれた後、大変に塞ぎ込んでいたと言います。私達が先生の所でお世話になってからも、時折寂しい思いをされているようです」 …………………… 「それでも今までは、時折修芳様がいらっしゃっていましたので、元気にやっていたのですが、その修芳様が亡くなったからは、さすがに気落ちしたご様子で……」 僕も、ティキも、項垂れてヒワの言葉を聞く。 「それでも私達の前では気丈に振舞って居られますが…… そんな先生を見ているのは悲しいのです」 バア様が今でもジイ様と連絡を取っているのか僕はわからないけど、少なくても母さんはあまりジイ様と連絡を取り合っていない。 別にジイ様と母さんが仲が悪いと言うわけじゃないけど、男親とその娘って、そんなもんなんだと思う。 加えて、なぜか親父はジイ様と仲が良かった。親父はジイ様を本当の親以上に思っていたと、聞いたことがある。 そういう事をちゃんと考えたら、やっぱりジイ様も寂しいのか、な……? 「大丈夫だよ。僕はちゃんとジイ様が好きだから。また来るよ」 「ティキもまた来るですよぉ☆ もっと、いっぱいお話したいですぅ♪」 僕達は勤めて明るくそう言った。 それを聞いて、ヒワは優しく微笑んだ。 そんなこんなで必要なものとそれに伴うある程度のヒントを手に入れたが、僕は案の定それを完成させる事が出来ずにいた。 当然だよなぁ。僕は専門家ではないし、その手の知識に明るいわけじゃない。 神姫のオーナーになってから多少はそういう知識に明るくなってはいたけど、それでも僕の手には余った。 ジイ様が指摘した通りの結果、というわけだ。 だけどやっぱり諦めるわけには行かない。 専門的な知識が僕にないのであれば―― ――専門家に聞けばいいじゃないか。 終える / もどる / つづく!
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/587.html
叡智を刃に、想いを力に(前編) “かまきりん”と称されていたフォートブラッグは、本人の意思によって 外道・猪刈久夫の手を離れ、今は私のスーツケースで眠りに付いている。 前回の事もあった為か、それを咎める者は誰もいなかった。まあ恐らくは 彼奴めの事だ。懲りもせずに再び神姫を虐げるのだろうが……今はいい。 偽善だろうが見栄だろうが、私達に出来る事をしただけだ。悔いはない。 「さて……騒がしかったが、これでクララのバトルも出来るか?」 「そうですの。今日はアルマお姉ちゃんだけじゃないですのッ!」 「頑張ってくださいね、クララちゃん?あたし達、応援しますッ」 クララにも専用の“Heiliges Kleid”と変身道具の“W.I.N.G.S.”を 装備させてやる。その腰はやはり、他の“姉達”と比べ些か寂しい。 彼女に欠けている物……普段から全形態で使う為の、彼女の武器だ。 銘だけは既に“ヘル”と決めているものの、試行錯誤が続いていた。 白兵でも射撃でもない非消耗品の武器。これは意外と難しいのだぞ? 「……うん。ボクも“戦乙女”の名に恥じない戦いをしてくるもん」 「その意気だ。お前には“魔術”がある、さあ蹴散らしてこいッ!」 『槇野晶さん、バトル開始時刻です。オーナー席に付いてください』 館内アナウンスが響く。私はエントリーゲートにクララをセットし、 見届け人のロッテと戦い終えて着替えたアルマを肩に、座席に着く。 今回の対戦相手は……見た事がない、切れ長の目を持つ男性だった。 「“アラクネー”。相手は初陣の様だが、手加減するな?」 「嗚呼、分かっているよ……今日も某の仕事をするだけだ」 男の神姫は、市場へ滅多に出回らず“ヴァーチャル神姫アイドル”とさえ 言われる幻の武装神姫、フブキタイプだった。見るのは初めてでないが、 彼女が“忍者刀・風花”も“大手裏剣・白詰草”も持たんのは初めてだ。 その姿も、どちらかと言えば“忍”というよりは現代の“スパイ”だな。 もっと装備の確認をしたかったが、ウェアラブルPCでの分析よりも早く “アラクネー”と呼ばれる神姫は、エントリーゲートに入ってしまった。 『クララvsアラクネー、本日のサードリーグ第36戦闘、開始します!』 そして、幻影の戦場が姿を見せた。舞台は……高層ビルとその周辺か。 ビルの外に出て戦う事も、ビルの狭い部屋を利用して戦う事も出来る。 今回のクララには都合の良い舞台と言えた……む、会話が聞こえるな。 「某は躊躇せず、そなたを木っ端微塵に“解体”する。覚悟は良いか?」 「……戦いに望む時から、ボク達は何時でも戻れない覚悟をしているよ」 「大した度胸だ、あるいは怖い者知らずか……どちらでも構わないかな」 「戦いってそういう物だもん……さあ、“態度”でお互い見せようよ?」 愉快そうに一息笑うアラクネー。移動型のカメラが二人の対峙を映す。 そこは、少し広めの会議室。その両端で、お互い睨み合っている様だ。 先に動いたのはスーツ姿の“アラクネー”であった。その指には……! 「某の名は“女郎蜘蛛”アラクネー!名の力、とくと知れ!」 「!?……高速で、部屋の壁面を蹴って移動している!!」 「まずは此方から往くぞ……丸腰のハウリンッ!!」 「ッ!?……糸?」 トリッキーな動きで飛びかかるアラクネーを、間一髪で避けるクララ。 だが彼女の髪が数本、はらりと床に落ちる。その軌道には……鋼の糸。 それが“蜘蛛の糸”の如く壁から、クララを切断しようと伸びたのだ。 厳密にはワイヤーのリールは、アラクネーの手中に幾つもあったがな。 「どうした、止まっていると死ぬぞ!?……ふっ!!」 「させない……ッ!?パイプ椅子が、こんな簡単に……!」 「チタン粉をコーティングした“斬鋼糸”だ、その程度」 「“斬鋼糸”……それが貴女の武器であり、名の由来」 素早く背後を取るアラクネーに向けて、私服であるコート姿のクララは パイプ椅子を盾代わりに利用した。御陰で首が飛ぶのは免れたものの、 スチール製のパイプ椅子は火花を散らして細切れに!……恐ろしいな。 「丸腰で戦場に叩き込むとは、そなたの主も鬼畜だな」 「……この姿ならまだ、でもボクには“力”がある」 「何?……ッ!こ、これは……先程のアレか!?」 言い放ち瞑目するクララ。その胸が、耳が、背中が……鮮やかに輝き、 幾重ものラインが、アルマの時と同じ様に“聖なるドレス”を形取る! どうやら先程のアルマを見ていたらしく、アラクネーも行動を起こす! 『“W.I.N.G.S.”……Execution!』 「……ふん、ただ丸腰という訳でもなかったか」 “姉”のドレスとほぼ同形状の、鋼鉄の衣をまとったクララ。 カラーパターンとその“腕”以外は、同じ性能・同じ素材だ。 そしてクララの腕には、16本の“柄”が下部に生えていた。 「貴女がトリッキーな手を使うなら、遠慮はしないよ」 「そうか、だが見てみろ。そなたは“蜘蛛の巣”の直中だ」 対するアラクネーは、数秒の“変身”の隙を突き“罠”を……って そうか、これかッ!!と、感心している場合でもないな。クララは 精緻な技術を以て編まれた“蜘蛛の巣”に、周囲を囲まれていた。 だがクララは冷静に部屋中を見渡し、アラクネーと対峙したのだ。 「動けばその鎧ごと斬り裂く。動かずとも、急所を穿つがな」 「……固定箇所、64。固定方法、チタン製のアンカーボルト」 「ッ!?……出来るだけ読まれぬ様に編んだのだが、やるな」 だがどうする?とワイヤーを向けるアラクネー。後で知った事だが、 このアラクネー……所詮サードリーグとは言え上位に属するらしい。 それ程の手練れ相手、普通の神姫ならば今頃はバラバラだったろう。 だがそんな強敵を前にしても、クララは冷静沈着に“柄”を抜いた! 「苦無?いや、ダガーか……だがそんな物で何になるか」 「……“蜘蛛の糸”を断ち切る、菩薩の手になるんだよ?」 ──────解けない数式だって、この娘は解いてみせるよ。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/2chbattlerondo/pages/467.html
雑談部屋 雑談・情報提供・編集要望・編集報告どんな内容でもOKです。 まおちゃお「おはなしなのだー!」 過去ログ:過去ログ1 / 過去ログ2 トップページのフブッホかわいい -- 名無しさん (2017-12-15 23 30 28) 武装神姫復活と聞いてお祝いしに着ました。 -- 名無しさん (2017-12-30 02 11 38) 更新がなく上部に広告が出てきた時はここに適当なコメントをすれば更新扱いとなって広告が消えます -- 名無しさん (2018-05-30 00 37 11) 広告を消すための更新用コメント -- 名無しさん (2018-08-19 22 09 34) 武装神姫復活の上好きなデザイナーさんも参加してくれてて嬉しい -- 名無しさん (2018-10-01 23 02 20) 荒らされてたんで元に戻しておきました -- 名無しさん (2024-05-29 22 47 22) gj -- 名無しさん (2024-06-22 09 32 57) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/875.html
むが~すむがす・・・でねぇで2036年の事だべ。あるカラオケ屋にたげ変な武装神姫が働いてたんずや。どんげにえばだかっつうとこったら感じだったんず。 〔割と久しぶりだわ、カラオケなんて。そう言えば新曲で歌いたいのがあったのよね。とりあえず副部長、お酒頼んで〕 {部長部長!! 一応サークルの新人歓迎会だって忘れないで下さいよ! あ、キミたち、食べたいものがあったら好きなの頼んでいいですから} 「・・・私、人前で歌うのはあんまり・・・」 [新入りちゃん、大丈夫だって。聞いてるだけでも、今宴会用のパーティーグッズだか何だかも頼んだからちゃんと楽しめるって!] 〈ちょっとセンパイ・・・そういうパーティーグッズって大抵イタいコスチュームとかしょうもない玩具とか、最初は勢いで楽しんでも2度と使えなくて、しかもこういう所で頼むとぼったくりな料金取られますよ!?〉 [そっちの新入りはツッコミきついな~。いいじゃねえかよ、意外と面白いのが出てくるかもしれないだろ?] 『んだっ!! 面白くねんかは見てから決めてけろっ!!!』 {いきなりマイク最大で喋るのは誰ですか! あ、人形?} 〔武装神姫じゃないそれ? 着物着てるけど、確かツガルタイプね〕 〈武装神姫って・・たしかマニアックな玩具でしたっけそれ? 良く種類まで知ってますね〉 『オモチャなんとは違うだ!! わーはさすらいの神姫演歌歌手、サユリちゃんだべ!! まんず1曲聴いてけろっ!! “津軽海峡冬景色”! ~♪ ~゛♪゛♪~』 [なっ!? 演歌ぁ!? いまどき演歌なんてジジイでも歌わねえのに、そんなんで盛り上げようなんておこがましいぜ!! 俺の“B’zの新曲”でも聴いて考えを改めな!! ~゛♪゛♪~!!] 『ほー、言うずらあってたげ気合入れた声しちゅーな。だばって歴史の浅か歌だば重さ足りんべや!! 真の歌っちゅうんは今さ聞いともたげ涙出るだべや~。それども古い歌なん今の若い者は知らんべや? がへーね! “淡墨桜”!! ~~♪♪!』 [B‘zの歌が軽いだと!? 古い歌知らねえだと!? そんな減らず口、この歌で塞いでやる!! “ギリギリchop”!! ~゛♪゛!!♪♪♪!!!~] 「・・・“Top of the World”歌います。~~♪~♪~♪~」 〈ああもう・・・、歌えばいいんでしょうが!! “Imagine”!! ~~~♪~♪♪~〉 〔へえ、意外といい歌知ってるじゃない2人とも。これは演歌ちゃんだけじゃなく、新入りちゃん達にも負けていられないわね! “みかんのうた”行くわよ! ゛♪゛♪゛♪~ ゛!゛!゛!~〕 {ああもう部長まで挑発に乗って、これでは収集が・・・} 『さしね!! オケ屋なん暴れて歌うトコだべや!! こすばすねで歌え! “鳳仙花”! ~゛!! ♪♪~゛♪~』 {歌わないとは言っていません!! “脳内モルヒネ”、歌います・・。 ♪~! ♪♪~♪~} 〈次は“ピンクスパイダー” !!!♪♪~♪!!〉 「・・・“fly me to the moon” ♪~♪♪~♪ ♪♪~」 〔皆、古い歌しばりでもレパートリーあるのね。“石川大阪友好条約” ~♪ ~!! ~♪♪〕 [“DA・KA・RA・SO・NO・TE・O・HA・NA・SHI・TE”だ!! ♪~♪♪ !!!~♪] {“月に叢雲花に風”、歌います。 ~!!!~♪~!!!~♪♪} 『“夕焼けとんび”だべ!! ~~~~♪♪~~!!♪~』 [次は“LADY NAVIGATION”を・・・] 〈センパイ、俺の“lithium”が先です!! 大体、70過ぎても現役ロッカーな物好きの歌ばっかり歌わないで下さいよ!!〉 [B’zをバカにするな! 大体お前だって自殺とか殺されたりした奴の歌ばっかり歌ってんな! 辛気臭い!!] 〈なっ!? 別に歌は辛気臭くないんだからいいじゃないですか!!〉 『なんしたば~、歌の趣味なん好き好きだてや~』 〔ねーねー、折角だから皆で“青のり”歌わない?〕 [{〈『それは却下!!!!』〉}] こったら風に、そげなそげな迷惑な位、古くさい歌に情熱ば注ぐ変わり者な奴だったてんがや。 「ありがどんごす~♪」 「有難うございました~♪ ・・・あ~ふわぁ~、眠ぃ、朝になってやっと閉店、これだからオケ屋のバイトってのは・・・」 サユリと歌ってた最後の客ば見送ってから、マツケンはでったらあぐびばする。それさ聞きつけて、奥からみりーも顔さ出す。2人ともサユリば同僚のアルバイトなんずや。 「マツケン君、最後のお客、随分盛り上がってたみたいだね」 「あ、みりー。それはこいつが居たからだよ」 「ああ、サユリちゃんか~。どうりで古い曲ばっかり聞こえてくると思ったら」 「めんずらすに、たげ威勢のよか客だったべや!」 「珍しく、怒らない客だった、だろ? いつも言ってるけど、まともに接客しろよ!! お前が古い歌で引っ掻き回した客の応対誰がしてると思ってるんだよ!!」 「でも結構サユリちゃんの売り上げ多いよ?」 「・・・珍しがってるだけなんだよ」 マツケンさにらんだばってん、サユリはなんともねて鼻で笑ったとや。 「さて、たげバイト代さ溜まったべな、わーはまた旅さ出るベな」 「へ? 旅って、もう出て行くのか?」 後片づけさ始めたマツケンたちば尻目に、サユリはいきなり宣言しよった。いづのこめにその体にしちゃあでったらい風呂敷ば背負って旅支度さしとったしの。 「え? サユリちゃんてこの店の神姫じゃなかったの?」 「ああ、こいつは俺たちと同じバイト」 「マスターも無しに?」 「なんでか知らねえけど、そうらしい」 みりーは先週さ入ったばっかだったべに、サユリさ来た1月時のことさ知らねかったんだべや。 「ふらりとやってきて、いきなり1人で『住み込みで働かせてけ~』って押しかけて来たんだよこいつ。最近じゃ路上ライブも取り締まり厳しいからとか何とかで。で、物好きな店長が宴会要員として採用しちゃったんだよ」 「物好きさ言うでねえ!! わーの心意気に惚れ込んだてに店長は雇ってくれたんだべや!!」 「いや心意気はともかく野良神姫の飛び入りバイトなんて雇ったら十分物好きだろ。大体お前演歌しか歌わねえし・・・まぁ、上手いとは思わなくもな・・」 「ねえ、ところで旅って何処へ行くの? 何が目的?」 「わーの師匠の親戚ば渡り歩いてんだべ」 マツケンの声さ遮ってみりーが聞くと、サユリはそう答えたべや。師匠ってばサユリのマスターの事だや。 「なんだ、野良じゃなくてはぐれた神姫だったのか。その師匠・・マスターを探して歩いてるのか? 何ではぐれたか知らないけど」 「だったらマツケンのお兄さんに探してもらったら? 確か元刑事だとか探偵だとか何とかじゃなかったかな」 みりーの言う通り、マツケンさ兄は私立探偵さしてただ。まーそん欠けたハサミみてーな探偵の神姫に引っ掻き回され人生っぷりは別の話で見てけっさ。けどもみりーの提案にも、サユリは首横さ振ったべや。 「つがるね。わーは別に師匠とはぐれた訳でねでぃや。自分で旅ば出て、修行してるんだベや」 「修行!? 演歌の!?」 「わーは昔、たげ「時期ネタ」だて虐められたべや。サンタなん「残りの364日はプー」なん色々言われてなぁ」 「あ~、俺も言ってたな。ツガルタイプはデザイン優先で使えないとかクリスマス以外の日にサンタが居てもありがたみが無いとか一人だけ元ネタありでデザイナーからゴリ押しで入れられた邪道だの色々。本人に言われると罪悪感沸くなあ」 「だば罪さ償いに死んでけ」 「さらっと言うな酷いコト!!」 「ま、そげは冗談だばってん、そんでわーはたげ落ち込んだべや。そったらわーの師匠は言ったベや。『一日だけでも、毎年喜ばれるならいい』てや。わーの師匠はたった1日ば出番さ日に、悪者さなって豆弾さ投げつけられるんだてや。それだけでねーばん、師匠さ親戚は葉っぱで目潰しさされたり、初嫁やもっけに挨拶しに行っただけだばって脅迫さ誘拐さ勘違いされたり、たんだ笑ったばっかに「何をあざ笑ってるんだ!!」って非難ばされるって言ってたべや」 「でも実際悪さしてたんだろ? それだけ憎まれてるんなら」 「そげなはごくごく一部べや。殆どは昔良か思ってば始めた事だに皆が昔の事忘れちゅーて全部悪い方に勘違いされてるべや。それならまだ良かが、その風習自体もたげ忘れられちゅー、よう覚えられてんなってんさ」 「そんな・・・師匠さんの一族って可哀そう」 「ああ・・・ うん・・?」 みりーもマツケンも不幸なサユリさ師匠を哀れんださ。だばってマツケンはその師匠さ何か引っかかるとも思ってたべや。 「だばっても師匠はこうも言ってたべや。『だけど、俺達一族のやっている事は、関係ない、意味無いと言われても最後には人の幸せに繋がる事だから誇りを持っている』ってな。わーはその言葉にたげ心打たれたん」 「あ、なるほど。“風が吹けば桶屋が儲かる”の理屈か」 「え? 天気悪いと客足引くじゃない?」 「いやオケじゃなくて桶。風呂桶の桶だって。嫌な事が関係ないように見えて良い事に繋がってるってことわざ」 「そうべ、だはんで、わーはそげな風に迷惑さ言われても自分のやる事誇れる者になりたて、諸国巡りしちゅー訳べや」 「そうか、だからわざわざ今では廃れて無意味で陳列棚の邪魔者って言われる演歌で身の上を立てたりしてるのか。神姫の癖に見上げた根性だよ、ホントに」 「やー演歌は趣味だはんで」 「話の腰折るなよ」 「んだ、へばわー行ぐはんで」 そう言ってサユリは風呂敷さしょって立ち上がったべや。 「ホントに、言っちゃうんだね。それじゃあ、次は何処に行くの?」 「次は師匠の故郷に寄るばってさ。京都の大江山だべ」 「え? 大江山?」 「そうべ。師匠は居らねーばん、集落さ仲間たげ居るっちゅー話だて」 「そっか、早く師匠さんに自慢できるようなオケ屋になれるといいね」 「ああ、がんばんベ。じゃ、短けえ間だばったがありがとや。ひゃーなー」 「うん、元気でね~!!」 朝日がちっけな後姿を消したんは、ほんに一瞬の事だったと。 「・・・ねえ、マツケン君、何か考え込んでるみたいだけど、どうしたの? サユリちゃんが心配?」 「いやさ、豆投げるのって、節分だよな? 最近あんまりやらないけど」 「・・・え?」 「節分の魔よけのヒイラギは目潰し用だって言うし、子供を追い回すって言うとなまはげ。来年の事を言うとアレが笑うってことわざもある。極めつけは京都の大江山って酒呑童子伝説の場所なんだよ」 「え、それって、もしかして、時期ネタで苦しめられて昨今忘れ去られてるってまさか・・・」 「いやでも・・・実在するなんて・・・ちょっとなあ、にわかに信じがたいってか・・・」 「・・・今度サユリちゃんに会ったら聞いてみるしかないよね」 「・・・また会ったら、な」 そん後も、マツケンとみりーは神姫演歌歌手の噂ば何度か聞いたと。だばって、サユリとば会うことは2度と無かったと。とっつぱれ(?)。 目次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1134.html
戦うことを忘れた武装神姫・番外編 ちっちゃい物研・商品案内-13 <東杜田技研・新製品のご案内-13> 注)当然ですが、以下の内容はすべて当方の脳内生成物であり、 現実には存在しませんので。。。 <東杜田技研・新製品のご案内> このたび、弊社の小型ロボット向けコスメブランド「T3」では、 近年 人気が高まっております「武士神姫」向け商品を開発、シリーズ名 「T3-乙女志向」として展開することになりました。 まず第一弾として「ボディーソープ」・「シャンプー」・「リンス」を発売 いたします。 〜「T3-乙女志向 ・ 神姫ボディーソープ・ 神姫シャンプー・神姫リンス」の特徴〜 ■各種小型ロボット向けのメンテナンス用品開発で定評のある当社 T3チームが総力を挙げ、小型機械技術研究製作部とも連携して 開発された、神姫向けのボディーソープ。 ■またシャンプーとリンスは当社T3チームと某大手化粧品メーカー との共同開発。 神姫の人工毛髪と抜群の相性を誇ります。 ■中性かつ低浸潤性ながら、強力樹脂クリーナー以上の洗浄力。 もちろん、神姫本体のペイントを侵すことはありません。(註1) ■敏感なフェイス部分にも安心してお使いいただける、独自の配合。 もちろん、オーナー様ご自身にもお使いいただけるよう、各種の 規制に適合させております。 一緒のお風呂・シャワーの際には ぜひお試しください!! ■神姫が嫌がることの無いように、独特の芳香剤を配合。洗浄後に は、ほんのりといい香りも漂います。 ■シャンプーとリンスは、各3種類を用意。お手元の神姫との相性や 香りによって選ぶ事が出来ます。 ■専用ボトルには、オーナー様が使う通常のポンプのほか、神姫用 の小型ポンプも装着されており、神姫自身がひとりで洗浄される 際にも安心の設計。 ■シャンプーが苦手な神姫のために、同時にシャンプーハットも発売。 5色を用意、お好きなものをお選びいただけます。 (註1)純正塗色は問題ありませんが、リペイントに関しましては 保障対象外とさせていただきます。 詳細は、下記を参照して下さい。また、新たな情報は随時公開いたし ますので、HPにてご確認下さい。 <T3-乙女志向 「神姫ボディーソープ」> ・天然由来の香料とボディの艶出し成分を配合。 ・500mLボトル(ポンプ2種付き) ・500mL詰め替え用リサイクルポリ容器入り ・別売りボトル <T3-乙女志向 「神姫シャンプー」> ・ストレート、ダメージケア、トニックタイプの計3種類。 ・それぞれに、天然由来の香料配合。 ・500mLボトル(ポンプ2種付き) ・500mL詰め替え用リサイクルポリ容器入り ・別売りボトル <T3-乙女志向 「神姫リンス」> ・ストレート、モイスト、ダメージケアの計3種類。 ・それぞれに、天然由来の香料配合。 ・500mLボトル(ポンプ2種付き) ・500mL詰め替え用リサイクルポリ容器入り ・別売りボトル <T3-乙女志向 「神姫シャンプーハット」> ・ピンク・水色・黄緑・黄色・白の計5色。 ・徳用詰め合わせ10枚セットもあります。 ・発売予定時期 (全商品・今夏予定。初回生産分のシャンプーには、 シャンプーハットが付属する予定です。) 以上 <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2105.html
ウサギのナミダ ACT 0-2 ■ バッテリーがフル充電になり、わたしは覚醒を促される。 ゆっくりと開く瞳。 目覚めたわたしは、眩しさに目を細めた。 ……ここはどこだろう? お店にいたときは、こんな眩しさを感じたことはなかった。 やがて瞳が光量を調節し、周りが認識できるようになってくる。 眩しく感じたのは、白い壁だった。 白い壁、白い部屋。 実際の明るさはそれほどでもないけれど、薄暗いお店しかしらないわたしにとっては、とても明るい部屋だった。 やわらかな光に満たされていた。 わたしはクレイドルの上に寝かされていた。 まだ真新しいことが肌触りでわかる。 わたしの上には、白く清潔な布が一枚かけられている。 白無地のように見えるが、同じ色の糸でシンプルな模様が入っている。 男性用のハンカチのようだ。 しわもなく、真っ白で、かすかにさわやかな香りがする。 あたりは、しん、と静まり返っている。 ここはどこだろう? わたしが身体を起こそうとすると、 「……ッ!」 激痛が身体を走り、わたしはうめいた。 そうだ、思い出した。 わたしはあの夜、お客さんに無理矢理連れ出され、そして…… よく覚えていない。 途中からの記録が途切れている。 痛みがするのは両脚と左腕。わたしを連れ出したお客さんの仕打ちだった。 左腕を見ると、細い木を使って添え木がしてあり、丁寧に包帯が巻かれていた。 布に隠れた脚を見ると、左腕同様に手当がしてあった。 わたしをここに連れてきた誰かがしてくれたのだろうか。 そこまで考えたとき、突然ガチャガチャという金属音がして、わたしはびくりと身をすくませる。 左の奥には扉があるようで、そこから一人の男性が現れた。 「目が覚めたか」 ちょっとそっけないくらいの口調で、わたしに声をかける。 知らない人だった。 少なくとも、わたしのお客さんにこの人はいなかったと思う。 端整な顔立ちの男性だった。 「拾ってきたときには動きもしなくて、あせった。ただのバッテリー切れでよかった」 その人は、わたしに呟くように話す。 「あの……」 わたしが声を出すと、なんだか驚いたようにわたしを見た。 その表情に、わたしは少しおびえて、ハンカチを引き寄せる。 「あの……ここはどこですか……?」 「俺のアパートだ。昨日の夜、おまえを拾ってきた」 ぞんざいなしゃべり方だったけど、不思議と嫌な感じはしなかった。 「わたし……おきゃくさ……男の人に連れ出さたんですけど……その人は?」 「おまえを投げ捨てて逃げたよ」 言いながら、わたしの左手にある机の上に持っていた包みをおいた。 わたしの背後にあるPCの机とはひと続きになった長い机で、荷物のおかれた場所は何かの作業場になっているようだった。 様々な工具がきちんと整頓されて、並べられている。 「添え木してるから身動きがとれないだろ。すまんな。さっき新しいボディを買ってきた。 明日には、神姫に詳しい奴にボディの換装を頼んでいるから、しばらく辛抱してくれ」 「新しいボディ……?」 たったいま机に置いた包みを示しながら、その人は言う。 「いま買ってきた」 「……わたしの、ために?」 「そうだ」 「なぜ、ですか? なんで、わたしなんかのために、こんな……」 素体とはいえ、神姫の新品ボディは決して安くはないはずだ。 「そりゃぁ……」 その人は、いとも簡単にこう言った。 「おまえのオーナーになりたいからだ」 「わたしの……オーナー……?」 「そうだ。だからおまえを連れてきた」 わたしは驚いてすぐに言った。 「だ、だめです、そんなこと。わたしがあなたの神姫になったら、ご迷惑がかかってしまいます」 「なぜだ?」 「だって……」 好き好んで、わたしのような神姫のオーナーになる人なんて、いない。なぜなら、 「わたしは、神姫風俗の神姫ですから……」 □ その神姫はそう言って、悲しげにうつむいた。 その事実が、どれだけ重荷なのか、昨夜までの俺ならわからなかったろう。 だが、こいつをクレイドルに乗せ、PCでこいつの記録を見て……俺は思い知らされた。 人間とはどれほど醜悪な存在なのかを。 「わ、わたしは汚れた神姫ですから……あなたのような方の神姫になる資格なんてないんです……」 なんだ、その資格ってのは。 少し腹立たしくなっている俺の前で、その神姫は自らの境遇を語りだした。 「PCにクレイドルをつないだのなら……わ、わたしのことなんて、もうわかってますよね……わたしは神姫として目覚めたときから、お店の中にいました。お店から出たのは、ここへ来るときが初めてです。あんなことでもなければ、出ることもなく、壊れていったんでしょう……。 わたしは名前をつけられませんでした。店にいる神姫はみんなそうでした。ただ、番号で呼ばれていただけ……わたしたちは、お客さんといるときはお客さんの神姫だから、お客さんの呼ぶ名前を自分の名前と思え、って……。 わたしは目覚めたその日から、お店に出ました。すぐにわたしの番号、23番が呼ばれて……わたしは人間の男性に……奉仕しました……」 23番の神姫がそれからしたことを、俺は自分のPCで見た。 神姫風俗というのは、人間の女性ではなく神姫を使った風俗営業のことである。 一五cmのフィギュアの女の子を性行為に使って何がいいのかと思うが、そっち方面の男達に需要があり、それなりに繁盛しているのだそうだ。 それに、人間を雇うよりも、神姫の方が購入代金とメンテナンス料を含めても断然安い。 人件費の安さがそのまま料金にフィードバックし、そんなにお金が無くてもその手の人たちには楽しめる……らしい。 存在は知っていた。 だが、俺が知っていたのはこの程度のことだった。 昨夜見たこの神姫の記録は、俺の想像を絶するものだった。 男への奉仕なんてものじゃない。 神姫専用の自慰アダプタを使用してのセックスなんてものはまだかわいい方だ。 およそ考えうる、ありとあらゆる方法で神姫は陵辱されたいた。 客が持ち込んだ同サイズの男性型フィギュアロボによる強姦や輪姦は言うに及ばず、多様な動物型との性交、空想上の動物……つまり触手プレイなんてものまでさせられていた。 もちろん、神姫達にとっても理解の範疇を越えることであり、この神姫が泣き叫ぶ姿が何度も何度も記録に収められていた。 その姿を客の男たちは、楽しそうに眺めている。 彼女がどんなにやめてくれ、助けてくれと懇願しても、聞き入れることはない。むしろさらに悲鳴を上げさせるために、行為をエスカレートさせるほどだ。 「そ、そうすると、わたしたちは、だんだんとその行為への感情を適当に処理するようになるんです……どんな行為でも、同じように処理して負荷を少なくするんです。 それで……反応が鈍くなってくると……感情のプログラムとデータをデリートして再インストールされるんです……」 この神姫が語る新事実に、また頭をぶん殴られたような気持ちになった。 神姫風俗を利用する奴もひどいが、やっている連中もひどすぎる。 人間の醜悪さを見せつけられて、俺は正直自分が人間であることに嫌気がさしてくるくらいの気分だった。 「再インストールが繰り返されると、わたしたちの記憶素子の損耗が早くなって……復旧が難しくなるんだそうです……何度も感情プログラムを入れ替え、最後にはまともに動作しなくなって……おかしくなってしまうんです……。 そんな神姫をお店で何度か見ました。そうなってしまうと、もう元には戻れないから……処分されしまうか、狂った神姫がほしいっていうお客さんに払い下げられて……」 どうも人間という奴は救いようがないらしい。 「わたしも、二回、再インストールされました……わたしの常連さんで、そう、あの夜わたしを連れだそうとした人なんですけど……折るんですよ、腕とか、脚とか身体を……すごくいたくて、やめてくださいってお願いするんですけど、絶対やめてくれなくて……」 「……もういい」 「でも、それもだんだん適当に感じるようになってきて、そうするとお客さんが怒ってクレーム付けて……再インストールされると、記憶で何されるかわかってるのに、感情はリセットされてるから、こわくて泣き叫ぶんです」 「……いいから、もう」 「でも、それを見て、お客さんはまた喜んで……わたしは、こわくていたくてつらくて、でもどうしようもなくて、だんだんとおかしくなっ……」 「やめろっ、もうしゃべるなっ!!」 机を思い切り拳でたたいた。 びくっと身体をふるわせ、大きな瞳を見開いて俺を見つめる。 「……それでも……おまえの過去を知ってなお、俺の神姫にしたいと言ったら?」 神姫はますます大きく目を開いて俺を見る。 「い、いけません……い、いまお話したように、わたしは……」 「おまえの過去なんて、関係あるかっ!」 「ありますっ……わたしが、神姫風俗にいたことがわかったら……あなたが悪く言われてしまいますっ……わたしのせいで、誰かに迷惑がかかるのは嫌なんです……」 彼女はうつむき、絞り出すように言った。 「だったらいっそ、お店に帰してください……わたしは、わたしは結局、お店の中でしか生きられない神姫なんです……!」 「じゃあなんで」 俺はそいつに、いっそ冷たい声で言ってやった。 「なんで、お前は泣いているんだ?」 「え?」 再び顔を上げた神姫の、その大きな瞳からは、大粒の涙がぽろぽろとこぼれている。 「店に戻り、誰にも迷惑かけずに生きていけるって、自分が望んでいるのに、なぜお前は泣いている?」 「あ、あの……これは……」 壊れていない右腕で、両方の瞳を必死に拭う。しかしそれでも、彼女の瞳からは涙が次々と溢れては落ちた。 俺は容赦なくこいつに言葉を浴びせかける。 「ここまで聞かされて……そんな地獄みたいな場所におまえを戻して、俺にトラウマ残すつもりかよ」 正直、今の俺ははらわたが煮えくり返っていた。 神姫風俗の経営者や使っている客の醜悪さ、そこにとどまらざるを得ないと諦めているこの神姫、そしてなにより、そんな状況をどうすることもできず、無力さを隠していらだちを傷ついた神姫にぶつけている自分自身に。 「それで、おまえ以外の、自分が気にも入らない神姫とよろしくやれっていうのか? 無理に決まっているだろう」 「そ、そんな……」 「さっき、おまえは、俺の神姫になる資格がない、そう言ったな」 「は、はい……」 「資格ってのは何だ。俺が望む以外に、なんの資格がいる?」 「……」 「俺は店の客のようなことを、おまえに望んじゃいない。おまえには武装神姫になってほしい」 弱った相手を追いつめておいて、逃げ道用意した上で懐柔か。最低だな、俺。 「ぶそう、しんき……」 武装神姫。それは神姫本来の姿。 俺は、資格がないとか言っているそいつをまっすぐに見た。 ひどい場所でひどいことをされていたと知っても、こいつを俺の神姫にしたいという気持ちが少しも揺らぐことはない。 むしろ見つめ続けるほどにその気持ちは強くなっていく。 なぜなのかは、俺にもわからない。なぜなんだろうな、本当に。 「もう過去のことは言うな。おまえは生まれ変わるんだ。俺の神姫として。……そして、おまえの知らない世界を見せてやる」 ■ 「わたしの、知らない世界……」 もうすでに、ここにいること自体に現実感がなかった。 この人は、なぜこれほどまで、わたしのオーナーになりたがるのだろう。 正直言えば、とても嬉しかった。 でも、わたしの存在が、この人の幸せを奪ってしまうのだとしたら? そう思うと、わたしはどうしても、この人の想いに応えることができなかった。 「……まあいい。どちらにしてもおまえの身体はひどい壊れ方だからな。ボディを入れ替えなくちゃならん」 わたしは顔を上げて、その人を見る。 「そうしたら、オーナーの登録も名前の登録もやり直すことができるんだ。おまえは本当に生まれ変われるんだぜ?」 視線を逸らし、独り言を呟くように、わたしに告げた。 生まれ変わって、武装神姫になる。 夢のような、奇跡のような話だった。 この人は、明日、その奇跡をわたしにくれると言う。 それでも、どうしても、わたしは素直に喜べなかった。 結局、怖かったのだ。 そのときのわたしは知らなかったから。 お店以外の世界を。 そして、今まで逢ったどんな人とも違う、この人を。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/820.html
折り返し──あるいは二日目その二 “鳳凰カップ”は二日目の中天を過ぎ、流石に客足は決勝ブロックの ギャラリーへと流れつつあった。私・槇野晶は必死で客を捌き続け、 神姫たる“妹”のアルマも、数時間に及ぶゲリラライブをこなした。 あれ程の大群衆を引きつけてくれたのは、彼女の功績に他ならんな。 故に、遅めの昼食を摂る事とした。アルマも空腹だろうしな、有無。 「アルマ、よく頑張った。あれ程歌い続けて、ヘトヘトだろう?」 「あ、はい……ちょっとだけバッテリー残量が心許ないですけど」 「ならば昼食をたっぷりと食べて、午後のライブまで休むと良い」 「えっと……すみませんマイスター、本当はお手伝いの時なのに」 構わぬ、と言って私は彼女の躯を軽くチェックし、着衣の乱れを正す。 しっとり風のラブソングから熱血の極みと言えるファンファーレまで、 アルマは実に、アルバム1枚超に及ぶ長丁場を一人で切り抜けたのだ。 その間急造のステージから降りる事も叶わず、彼女は一人歌い続けた。 激しい動きをせずとも、その服が乱れてしまうのは仕方ない事なのだ。 「ところでマイスター、梓ちゃんとロッテちゃんはどうしたんです?」 「有無。先程渡瀬美琴がやってきおってな……勝ちを拾ったそうだぞ」 「本当ですか!?ファーストやセカンドが、ひしめいているのに……」 「……これで公式に反映されるポイントも、相当数になる……だがな」 冴えない私の表情から、何かを感じ取るアルマ。そう、語られぬ所では クララとアルマも、ちゃんと公式バトルでの勝利と敗北を重ねている。 だが、ロッテとのランク格差は……今回の一件で大きく開く事だろう! 流石に何もせずしてセカンドへ昇格、等という事態はないだろうがな。 だがそれでも、この様に突出する事が果たして“三人”の幸せなのか? 「多分、この次も勝ったら……あの娘らは、即刻棄権するだろうな」 「……そうじゃないか、と思います。戦うなら最後まで、ですけど」 「だが望まぬ戦いをも率先して受ける様な、戦闘狂ではあるまい?」 「はい……ただあくまでロッテちゃんは、限界を見切るつもりです」 「有無。それを知りたくて、頂点を目指しに行ったのだろうからな」 言葉では明言されない物の、今ならばロッテと梓……ついでにアルマが、 奇策を弄してまでトーナメントの参加を押し通した理由が、良く分かる。 “己の戦いに誇りを”。これはロッテが戦いの際に、時々告げる誓いだ。 だが言葉だけの“誇り”等、いかがわしいネオンサインより陳腐である。 実行しなければ、出来ない事ならば。野心も勇気も願望も、力を持たぬ。 「ならばこそ己が何処まで出来るのか、更に何処へ伸びて行けるのか」 「それらの見極めの為に、今回の“聖杯”は打って付けだったんです」 「……アルマや。別にお前達が後ろめたさを覚える事は、何もないぞ」 「マイスター……はい、有り難うございます。そして、ごめんなさい」 「その意志を大事にしたい故に、私も“魔剣”等を求めたりしたのだ」 何も頂点に立つ事だけが大事なのではない。その過程に何を見出すか、 それが出来てこそ“求道者”や“戦士”としての成長が、あるのだな。 だからこそ、“姉”であり後援者たる私は……過程も結果も尊重する。 『結果が全てだ』等とは今世紀初頭から言われているが、愚かな事だ。 過程がなければ結果はまず成せず、結果が見えなければ過程も為らぬ。 「まあ何を言おうとも、私は彼女らを褒め称え労うつもりでいるぞ」 「あ……は、はいっ!本当に有り難うございます、マイスター!!」 「有無。所で何故、前日に『神姫素体で赴く』と言い出したのだ?」 ここで話を変える。このゲリラライブは、文字通り“ゲリラ戦法”だ。 大会本部への申請は、殆ど事後承諾となっていた。私自身、アルマめが 前日に準備を始めるまで、本気でライブを行うとは思わなかったのだ。 その時は強い意志に根負けして挙行を認めたのだが、やはり気になる。 だがその疑問に対する答えは、やはり驚く程シンプル且つ強固だった。 「あたしだって神姫です。神姫でしか出来ない事で、挑戦したかった」 「……故にこそ敢えてHVIFでなく、その躯で挑んだというのか?」 「はい。“肉の躯”よりも、“殻の躯”で伝えたかった想いですから」 HVIFは、人と神姫の垣根を取り払う。だが同時に、神姫達にとっては 不便な要素も存在していた。“心”に纏わる事柄についても、同じ様だ。 だからこそ“歌い手としての”アルマの感性は今回、神姫素体を選んだ。 神姫の“心”が人と同様だからこそ、僅かな差を敏感に感じるのだろう。 そう言う意味では、『同様であっても模造ではない』とも言えるのだが。 「そうか。想いを皆に伝えたいが故に、より良き策を取ったのだな?」 「はい……巧く言葉では表現出来ないんですけど、こうなんとなくっ」 「それで構わぬ。人の心も神姫の心も、理論では説明しきれぬしな!」 私はそう言って、アルマを肩に乗せてブースを離れた。二人とは今日、 一緒に昼食を摂る事は叶わぬが、最早全ての懸案は払拭されたも同然。 後はロッテ達が悔いの無い様に戦えば、それで十分だ。上機嫌である。 喫茶店“LEN”専用ブースたる大型トレーラーに、向かう事とした。 それは混雑する往来を小柄な躯ですり抜けていく、そんな最中だった。 「む……あの娘は、先日店へとやってきた……いや、人違いか……?」 「ん?……えっと、どうしたんですかマイスター。振り返っちゃって」 「いやな、この間店にやってきた女性に似ている者が居たのだが……」 L字定規を投げつけて、分かっていない不埒な輩を追い出したあの日だ。 うっかり往来にて投げたまま忘れていたL字定規を届けてくれた、ミラ。 “本物のガンスミス”の業物を持ち歩いていた、武装神姫達のオーナー。 「……彼女も彼女で忙しいのかもしれぬな。構わぬ、行くぞアルマ?」 見間違える筈はないのだが、彼女の姿を認めたのは会期中初めてである。 だが、あれ程“訳あり”の雰囲気を醸し出しておいて……偶然ではない。 ならば今の私が彼女を深追いする事は、お互いにとって“損”であろう。 不思議そうに首を傾げるアルマを宥めつつ、私は“LEN”に向かった。 「いらっしゃい……あら、晶ちゃんと大食いのアルマちゃんね」 「だッ、だから大食いって言わないで下さい!京都さん~!?」 「ふむ……そうか、千空めも決勝トーナメント出場組だったな」 「なんだ、彼奴がいないと寂しいか?そんな時はコーヒーだ!」 ──────寂しいのかどうかは、私だって分からないよ。 メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2661.html
8ページ目『剣の墓場』 ◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆ 前回までのあらすじ 世界中の神姫が、ただのフィギュアになっちゃったみたいです。 なんで? とは聞かないでください。 私だって、キャッツアイを名乗る3バカ神姫に出会うまで、イルミのことをすっかり忘れてしまっていたんです。 かと思いきや、ただのフィギュアから目を覚ましたイルミはすぐにいなくなって、代わりに現れたのは射美と名乗る、私と瓜二つの小さな女の子。 しかも射美ちゃんは、自分は私と弧域くんの子供だと言い張り、押し切られるように私達は一緒に住むことになってしまいました。 何が何やらサッパリなまま、私のことをママと呼ぶ射美ちゃんと一緒に、一晩を過ごすのでした。 ◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆ 「天才子役っているじゃない、小さいのにテレビに出てる子。すっごくチヤホヤされて持ち上げられるけど、あたしは子供をドラマに起用するのは無理があると思うの。嫉妬してるんじゃないよ、別に役者さんになりたいとか、思ったことないわけじゃないけど、どうでもいいし。そういう子の演技見てると、すぐ泣けたりするのはすごいけど、台詞は全部棒読みじゃない。しかもヘタに演技しようとして声が不協和音っぽくなってる子までいるし」 「その点、小説なら役者がいらないから大丈夫かなって思ったんだけどね、やっぱり難しいみたい。作家さんが文字を並べるだけだから、特攻服着たヤンキーがしんみりして哲学的なこと言ってたりするんだもん。って、あたしも人のこと言えないかな? 小説家目指してるママなら分かると思うけど、難しいよね」 「『一ノ傘』って苗字も好きなんだけどね、あたし、『雲呑(くものみ)』って苗字に憧れててたんだ。なんか響きがカワイイでしょ、ママもそう思わない? 将来は雲呑って苗字の男の人と結婚しようって考えてたくらいなの」 「でもね、にゃふー知恵袋で聞くと、雲呑って『ワンタン』って読むんだって分かって、すごくショックだったの。あたしのあだ名は絶対『ワンタン麺』に決まっちゃうじゃない。でもワンタン麺って食べたことないんだけど、おいしいのかな? ママは食べたことある?」 「武装神姫で日本一強い人って知ってる? 竹姫葉月っていうお姉さんなんだよ。神姫はアルテミスっていうアーンヴァルなんだけどね、悪い改造した神姫でも簡単にやっつけちゃうんだって。『もう死んでもいいから勝ちたい』って覚悟して違法な改造した神姫でも、全然勝負にならなくてあっさり負けちゃうんだってよ。神姫の世界も世知辛いよね」 「そんなに強い神姫でも、インターネットの対戦でなかなか勝てないところがあるらしいよ。そこに集まる神姫は悪い改造はしてないんだけどね、へんてこな神姫ばっかりなんだって。レーザーで魔法陣を描くシュメッターリングとか、ワープできるバイクに乗ったエストリルとか、12人の神姫を糸で操るクーフランとか、自分は硬い箱にこもったまま毒ガス攻撃するズルいマリーセレスなんてのもいるんだって。聞いてるだけでもすごそうだけど、たぶんその神姫達のバトルって、極端すぎて見ててもあんまり面白くないよね。でも今は世界中の神姫がただのフィギュアになってるから、関係無いか」 慌ただしかった昼間が嘘のように、夜の色に落ち着いた姫乃の部屋。母と娘二人の、布団の中から聞こえてくるおしゃべりは、明け方になるまで続いた。といっても話のほとんどは射美が一方的にしゃべるばかりで、姫乃は専ら相槌をうつだけだったが、射美にとってはかけがえのない時間だった。 ママと同じ布団に入っていれば、悪夢に怯える心配なんてしなくていい。どんな話でも聞いてくれるママがいてくれれば、明日もきっといい一日になる。 射美が信頼を寄せる姫乃と弧域は、最初こそ少し難色を示しても警察に突き出すような心ないことをせず、たとえ様子見であっても、射美のための居場所を作った。愛情を求める子が心安らかにいられる、大切な場所を。 弧域と姫乃の部屋は別れているから「今日はね、う~ん……ママと寝る!」と射美は選んだ。隠し切れないほどのショックを受けた弧域は、射美と明日一緒にお風呂に入ると約束をした。当然姫乃が却下したが。 夕食を弧域の部屋でとり、姫乃の部屋に戻った母子二人、女の子同士の夜は、いつまでもいつまでも、幸福に満ちていた。 結果、姫乃は体調を崩した。 弧域との喧嘩。 心を取り戻した神姫。 そして射美の登場。 それらをたったの数時間の中で経験し、さらに機嫌を持ち直した射美は姫乃と二人でベッドに潜った後も睡魔を尽く退け、姫乃は夜通し娘(仮)の話に付き合う運びとなったのである。 途中で(あ、これ明日はダメかも)と軽い絶望を感じつつも、ついに射美の笑顔を崩すことなく明け方まで耐え切った姫乃は、早くも一人の母としての偉業を成し遂げたと言っても過言ではない。翌朝、体温が38.2度を記録したことからも、いかに姫乃が頑張ったかが伺える。 「ダメだよ、弧域くんはちゃんと学校行かないと。それより、今日の代返お願、ケホッ、ご、ごめん…………う、うん、なんとか大丈夫、かな」 「射美ちゃん? まだ私の横で寝てるよ。寝顔は天使みたい。私達の子供だからね……にはは、冗談よ」 「世話を任せたいのは山々なんだけど、たぶん昼過ぎまで起きないわよ。昨日からず~っとおしゃべりしてたもん。だから3限目の最後の講義が終わったらすぐに帰ってきてくれると嬉しい、かな。射美ちゃんが起きると思うから、二人で下着とか買ってきてくれると……無理? でも私のお下がりってわけにもいかないし……そうそう、頑張ってカワイイのを見繕ってあげてね、パパ」 「じゃあ帰りに風邪薬、お願いね。……うん、弧域くんも風邪をもらってこないように、ね」 通話を切ると、携帯が姫乃の手から枕元に滑り落ちた。拾い直す気も力もない姫乃は射美と自分の布団をかけ直し、目を閉じた。 看病のために学校を休むと弧域が頑なに主張するのは、姫乃が体調を崩す度のことだった。そして姫乃の部屋に入ろうとする弧域と、意地でも禁断の部屋に入らせまいとする姫乃の電話での応酬も、これまたいつも通りである。 普段ならば妥協案として、姫乃が弧域の部屋のベッドを使うことにしている。やつれた顔を見られることにかなりの抵抗があっても、体調を崩した時はどうしても気が弱くなり、独りきりでいることが心細くなってしまうからだ。 隣に射美がいるから寂しくはない、と言えるには言えたが、姫乃にとって射美はあくまで面倒を見るべき子供であり、ましてや自分の看病をさせるなどもっての外である。 すやすやと安らかに眠る少女は、普通ならばこの時間は学校に行く支度を済ませていなければならない。しかし射美にその記憶がない以上、弧域と姫乃は射美を送り出すことすらできないでいる。 (警察に行くのが正しいかどうか分かんないけど、どこかに相談しなくちゃ……身元が分かるまでここにいてもいい、って言えば、射美ちゃんも分かってくれる、よね) やむを得ないとはいえ、子供の大切な時間を自分の部屋に閉じ込めてしまうことに負い目を感じている姫乃は、風邪のせいで射美と始めた家族生活が早くもつまづいたことと相まって、かなり気を滅入らせてしまっていた。 カーテンの外は、昼も雲ひとつ無い青空を約束してくれそうな快晴。ボロアパート前の狭い道を、数分間隔で車が通っていく。そんな外の天気など知ったことではなく、静かに意識をまどろみの中に落としたい姫乃だったが、残念ながら、そうは問屋が卸さない。 何の前触れもなく、カラカラと窓が勝手に開いた。鍵は確かに閉まっていたはずだが、どうやって開錠されたのかは定かではない。カーテンが揺れて、眩しい光と新鮮かつ極寒の冷気が室内に容赦無く入り込む。 自分の空間から外部との繋がりを断ちたい時ほど、狙いすましたように宅配が届いたりセールスマンの襲撃にあいやすくなるものである。姫乃が体調を崩した原因のひとつである迷惑極まりない3匹の来訪はきっと、そういうことだった。 「おんやぁ? ホシはどうやらまだおネムのご様子。ここは一発、ワガハイの寝起きバズーカで目覚めさせてやるってのはどうにゃ」 寝起きバズーカやりたいんだったら静かに入ったらどうなのよ、と少々的外れなことを考える姫乃だった。 2日連続、しかも最悪のタイミングで無断侵入してきたキャッツアイの3匹、カグラ、ホムラ、アマティに対して、姫乃には怒る気力すら持てなかった。しかし、さすがに部屋の中で、小型とはいえ本気でバズーカなど構えられては無視するわけにもいかず、姫乃は渋々話しかけざるを得なかった。 「ゴホッ……お願い、今日はちょっと、静かにしてくれない、かな」 「なんにゃ、起きてたのにゃ。オマエが寝てる間に箪笥の中を物色するイベントとどっちをやろうか迷ったんにゃが、両方無駄になったにゃ。ヒロインを張るにゃら、朝はちょいエロイベントのひとつもこなしてほしいもんにゃ。ところで、そっちのロリはオマエの隠し子かにゃ?」 「そんなこと言ってる場合ですか。姫乃さん死ぬほど体調悪そうですよ」 アマティだけは姫乃の容態にいち早く気付き、気遣おうとする。できるならば部屋に侵入する前に気遣いをしてほしいと思う姫乃だった。 「あの、本当にごめんなさい。また出直します」 「今日の用事は隣室だろう、さっさと済ませて引き上げるぞ」 姫乃の懇願を聞いてか聞かずか、3人はあっさりと引き下がっていった。パタン、と窓が閉まり、部屋に再び平和が戻った。 ほんの短いやりとりではあったが、昨日のことを思えばあの3人が何をやらかしてくれるか分かったものではなく、姫乃の精神がさらにすり減ってしまった。 (あの3人もいなくなったし、弧域くんに……だめね。あの3人、弧域くんのエルを目覚めさせるんだっけ) 昨日、弧域は一度動く武装神姫――キャッツアイの3人を見ても信じようとせず、現実逃避してしまった。そのことを気にかけていた姫乃は、弧域に余計な心配をさせまいとして、今朝の弧域の看病を泣く泣く断ったのだ。弧域にしてみれば射美との顔合わせにより耐性がついていたのだが、事情を知らない弧域と朦朧とした姫乃には知る由もない。 「んん……なぁに? なにか言った?」 姫乃の隣で幸せそうに寝息を立てていた射美が目をこすり、開いた薄目が母親の顔を見つけた。 「あ、ごめん。起こしちゃった、かな」 「にはは。ママ、おはようのチュー」と姫乃のおでこに唇をつけた射美は「あっちぃ!」とすぐに離れた。 「ママ熱々! うわ、顔は真っ赤なのに唇は真っ青だよ!?」 「ごめんね、情けないママで、ケホッ、あんまり近づくと風邪うつっちゃ――」 「大丈夫!? どこも痛くない!? バイキンが悪いの? ママを体内からいじめるバイキンが悪いの? あたしが吸い取ってあげれば治る? じゃあもう一回チュー」 「んむっ!?」 姫乃に待てとすら言わせない電光石火の技だった。瞬きの間に合わされた唇、そこから全身でしがみつくように射美は手足を姫乃の体に回った。 誰もが羨む美少女、瓜二つの母娘がベッドの中でもつれ合う。乱れた髪が朱い頬を流れ、互いのすべてを奪い合うような口づけは、傍目に見れば燃え上がる恋人のそれに近い。 姫乃にとっては勿論、そこに情熱などあったものではない。 弧域にすらされたことがないほど強烈に吸い付かれ、バイキンどころか僅かに残っていた気力を奪い尽くされた姫乃は、もうされるがまま、時折ビクッと全身が硬直する以外は小指の一本すら動かせなかった。 「んむ……んふふ♪」 口づけ、いやもはや吸血に近いそれを続けていくほど、射美の表情は艶を増し、姫乃の表情からは生気が抜けていった。 (もう好きにして……あ、あれ? この感覚……) 無闇矢鱈な射美の愛情表現に快感すら見出し始めた時だった。薄れ行く意識の中で姫乃が覚えた感覚は、つい最近味わったものに似ていた。 ベッドのシーツが湖になったかのような、底へ底へと沈んでいく感覚。確かなものは射美と繋がる唇だけ。 いっそ心中とでも錯覚しようか、二人は暗い場所へと落ちていった。 「うっひゃあ、いきなり目の毒です! ――じゃなくて姫乃さん!? あなたは何が楽しくてまた自ら異空間に飛び込んできたんですか!」 「隣室だったからな。恐らく異空間の発生時、その神姫のマスターであるなしに関わらず、物理的に近い人間も巻き込まれるのだろう」 「ワガハイ、オマエのことを誤解してたにゃ。こんな時まで青少年育成条例に背を向けておんにゃの子に手を出すにゃんて……その意気やヨシ! オマエのただれた趣味はワガハイがメモリー(HDD)に永久保存してやるにゃ!」 パシャパシャと神姫サイズのカメラ(カグラが盗撮のために開発したもの)のシャッターが切られる音に気付いた射美は、あわてて姫乃を解放して立ち上がった。ブカブカの姫乃のパジャマの袖を振り回しての猛抗議である。 「ちょっとー! あたしとママのキスはあたしたちだけの宝物なんだからね! 勝手に撮っちゃダメ!」 「い、今ママって……姫乃さん、イチ神姫として勉強させてもらいました、ごちそうさまです」 「オイ、その姫乃が三途の川で溺死する寸前の顔をしているぞ。大丈夫か」 ホムラに言われ、アマティ、カグラ、それに射美は未だ倒れたままの姫乃の顔を覗き込み、息を呑んだ。 射美が着ているものとは色違いのパジャマのまま、姫乃はフローリングの床に倒れていた。 熱があるのだろう、顔が部分的に赤い。 しかし体力は底をついているのだろう、生気がない。 何か悲しいことがあったのだろう、目は充血して涙が漏れている。 寒いのだろう、鼻水が出放題である。 射美と愛を確かめ合いすぎたのだろう、口元がヨダレまみれである。 キスの最中で舌を噛まれたのだろう、だらしなく覗く舌に歯形がついている。 大学構内ですれ違えば誰もが振り向く、弧域一人のモノとしておくにはあまりに惜しい美貌。「にはは」と見せてくれる笑顔は太陽よりも眩しく光り輝く向日葵のよう。 大学1年の時、学園祭で開かれた美少女コンテストにわけもわからず出場させられ、観客の視線を独占してしまい、横に並んだ諸先輩方に睨まれたことがあった。 それほどである。それほどの面影は、もはやどこにもなかった。 「ママ、涙はいいけど、ハナミズとヨダレはヒロイン的にアウトだよ」 「そういう問題か?」 「しっかりしてください!どこか隅っこに運びましょう、ここは本当に危ないです!」 「せっかくにゃから、このベッドに寝かせたらどうにゃ。ちょっとデカいにゃが」 カグラ達はサッカーコートほどの広さの天井の下にいた。その天井こそベッドの裏面なのだが、たとえ姫乃の体調が良好であったとしても、それが弧域のベッドであると理解するには少し迷ったかもしれない。 ベッドを縦方向に二分して、片側は薄暗く、もう片側は明るい。 薄暗い方に見えるのは、姫乃の部屋にあるものと同じ机や本が散らかった本棚など、弧域の部屋そのものだった。 明るい方はといえば、まず床がフローリングではなく光を反射する色とりどりのタイル敷きだ。そして棚が整然と並んでおり、武装神姫の箱やパーツが陳列されている。姫乃達のいるベッドは、弧域の部屋と、どこかの神姫ショップ店内の中間にあった。 それだけでも異様といえる空間だが、さらにこの空間には特徴といえるモノに溢れている。 「やだ、なにこれ……全部お墓?」 「フン、言われてみれば墓にも見えるな。だがこれらはすべて剣だ」 硬いはずの床から本棚の本、ショップの商品にまで、ベッドの下以外の見える範囲すべてに、乱雑に大小形状様々の剣がびっしり突き立っている。その数は見える範囲だけでも千本を優に超えている。 剣の多くに鍔があり十字に見えるので、射美は西洋風の墓と勘違いしたのだ。あるいはここは、剣そのものの墓場なのかもしれない。 「ここがあの、エルさんの創る世界……なんだかエルさんの印象と違って、不気味ですね」 「にゃんてったってアルトレーネだからにゃ。性根が歪んでるのは想定の範囲内にゃ」 「殴りますよ」 「貴様ら、巫山戯るのはここでお終いだ」 身長以上に柄の長いハンマーを水平に構え、ホムラはフローリングとタイルの境目を跨ぐように立った。その境目の先、ベッドの天井から出たところにいつの間にか現れていたのは、金色の長髪、鉛色のロングコート、そして白く武骨な機械仕掛けの脚が特徴的な、戦乙女型アルトレーネ、エル。 俯いているため前髪が影になり、その表情をうかがい知ることはできない。 彼女も武装神姫ではあるが、ロングコートと脚の機械以外には何も持っていない。空いた両手が、側に突き刺さっている二本の剣を掴む。片方は装飾過多と見える大剣、もう片方は逆にシンプルなロングソード。その二本を構えるでもなく、これからジャグリングでも始めるかのように、真上より少し前方に放り投げた。そしてサッカーのボレーシュートよろしく、落下してきた剣を二本まとめて蹴り放った。 滅茶苦茶な軌道だが、その速さはライフル弾にも匹敵する。 「ぬっ!? うおおおおおおっ!」 飛ぶ剣にホムラはハンマーを合わせた。が、叩き落せたのはロングソードだけで、もう一本はホムラの背後へと飛んでいく。 「にゃほぁあ!? け、剣がいまワガハイの首元を通ったにゃ! 九匹に一鰹節にゃ!」 「まさか九死に一生って言いたかったんですか?」 「アマティの背面だ! 次が来るぞ!」 射美と姫乃を挟んでホムラの反対側にいるアマティは、ホムラの言うことを信じるどころか考えもしなかった。たった今、剣はアマティの正面から飛んできたばかりである。だからアマティは、ホムラが「俺の背面」と言い間違えたものとして、自らの剣を抜いて正面へ躍り出ようとした。 その瞬間、アマティの視界に火花が飛んだ。前のめりに体が倒れそうになり、床に手をついて姫乃を押し潰すことだけは回避できたものの、背中に走る激痛が堪えさせてはくれず、姫乃の隣に崩れ落ちた。 「きゃあっ!? だ、大丈夫……?」 慌てて近寄ろうとする射美を手で制したアマティは、未だ視界が安定しない中、背後を確認する。そこには【やはり、既に誰もいなかった】。 「わけわからんにゃ、アイツはアルトレーネじゃなかったのにゃ!? サイキッカー型が東京の立川以外の町にいるなんて聞いて無いにゃ!」 「アレはテレポートしているわけではない。一度見た神姫の技くらい覚えておけ、剣を周囲に叩きつけて得られる推進力を脚力に加える奴がいただろう」 解説しつつホムラは、再び別の方向から飛来した剣を弾いた。目の焦点を剣に合わせる間に、エルは姿を消してしまう。 「このベッドの上を移動しているのだろう。信じ難いスピードでな」 「アイツ一人に囲まれてるようなもんにゃ、ここにいたら格好の的じゃにゃいか! 早いとこベッドから出るにゃ!」 「だがな、このベッドの下だけ剣がない分、安全だぞ。奴が剣を使い捨てられるのは剣が突き立っている場所だけだからな。それに――」 側面から回転しながら飛んで来た二本の剣を、ホムラ、カグラがそれぞれ弾いた。ホムラは難なく防いだが、カグラは尻餅をついてしまう。 「奴は、この小娘二人を巻き込むことに対して、まったく躊躇を持ち合わせていないらしい」 言いつつホムラはチラリと射美と姫乃を伺った。 姫乃の状態は最悪だった。見て取れるほど体を震えさせ、縮こまってしまい移動どころか立ち上がることすら困難になっている。神姫云々よりも、一刻も早く適切な処置が必要だった。 「射美のパジャマも着てよママ……まだ寒い? ママ、ママ……うわああああああんママ死んじゃやだあああああ……」 上着はキャミソール一枚だけになり、泣きながら姫乃の体を懸命にこすってやっている射美も、動ける状態にはない。 「あ、今ネコ的な勘がビビビッときたにゃ。ほむほむ、ワガハイ達が置かれてる状況は【絶体絶命】じゃにゃいか」 「ホムラと呼べ。貴様はそのネコ的な勘とやらでようやく真っ当な状況判断ができるんだな。しかし今更愚痴も言ってられまい。アマティ、そろそろ起きろ」 「ランキングがなんぼのもんじゃーい!!」と叫びながら、うずくまっていたアマティが飛び上がった。 モード・オブ・アマテラスが発動し、スカート状のアーマーが左右に大きく展開された。先端の鋏のように開閉可能な部分は左右どちらもガッチリと、迫っていた剣を掴んでいる。 「ちょっと私より戦績がいいからってあの戦乙女、図に乗ってんじゃないわよ! つーかロングコートなんか着ちゃった戦乙女が世界のどこにいんのよ! ミ○キーもキングダムハーツでコート着てたって? 知らないわよクソがっ! アルトレーネは、こ、の、装備一式揃えてはじめて戦乙女だっつーの!」 「アマティ、児童ポルノが怯えてるにゃ」 「ああ? 何よ、児童ポルノって」 ほれ、とカグラに指差された射美は、あんまりなあだ名を付けられたことにも構わず、姫乃を覆い隠すように体を広げて抱きつき、まるでチェーンソーを持ったジェイソンに追い詰められたような目でアマティのことを見ている。 コホン、と咳をして気を落ち着けたアマティは、児童ポルノもとい射美に向かってとびっきりの笑顔を作った。 「にぱー☆」 「ひぃっ!?」 頭を抱えてうずくまってしまった射美と笑顔を引きつらせたアマティの間に、修復不能に近い溝ができてしまった。射美にとって長い人生(そんなものが射美にあったかどうかはともかく)の中でもっとも多感な時期である今、【突然豹変する金髪のお姉さん】というトラウマを植えつけたアマティの罪は重い。 「子供に嫌われるのって、結構ヘコむわね……」 「アマティはアマテラスを維持したまま姫乃と射美を守れ。アイツは俺とカグラで狩る」 「倒すならさっさと倒しちゃってよね。これ以上時間をかけて姫乃さんが危なくなったら、私はもっと射美ちゃんに嫌われそうだし」 「ほむほむと一緒にバトるのは久しぶりだにゃあ。二人でこの町のネコ大将を倒した時のことを思い出さにゃいか?」 「二人で? ……ああ、そういえば貴様が漫画を真似て作ったビッグプチマスィーンが自爆したせいで、その場にいた全員が死にかけたんだったな。思い出したら腹が立ってきたぞ、貴様後で――」 「な、なんのことかサッパリ分からないにゃあ。ワガハイとほむほむって実はまだ一緒にバトったことがないんじゃにゃいか、きっとそうにゃ! よーし今こそコンビネーションのお披露目の時にゃ! あのネコミミのないギュウドンを血祭りにあげてやるにゃー!」 カグラがホムラから逃げるように走りだしたことで、状況が動いた。これまでエルは大雑把にカグラ達の集団を狙って剣を蹴っていたが、今度はベッドの下から外に出ようとするカグラに的を絞った。 「誰もベッドの下から出さないつもりか? フン、確かにこちらに火器持ちはいないからな、一方的な今の状況を崩したくないのか」 ホムラの推理は実はまったく的を射ておらず、エルは単純に集団から外れて目についたものをターゲットとしただけだった。頻繁に位置を変えて遠くから剣を放つのも、エルが考えた戦術ではない。 剣を蹴り飛ばす技を持っていて、いくら使っても使い切れないほどの剣があり、ターゲットが一箇所に固まっていて狙いやすく、遠距離攻撃を想定した神姫の本能として頻繁に回避行動を取る。この4点だけがエルの行動基準になっていた。 アマティ達が最初に姫乃に説明した通り、心を持たないフィギュアの状態から目覚めて異空間に閉じこもる神姫は、それほどまでに正気を失っていた。 なぜ正気を失い、異空間を作り出し、誰彼構わず襲いかかるのかは分からない。しかし、不明確なことが多かろうが推理が外れようが、ホムラにとってそんなことは関係無かった。 「フィギュアになっていたせいか、丁度体がなまっていたところだ。リハビリがてら狩らせてもらうぞ、戦乙女」 カグラは毎度の如く囮の役目を十分に果たしている。ベッドから出ることも忘れ、連続して放たれる剣の弾丸からひたすら逃げ惑っている。 カグラを執拗に狙うあまり、エルはあまりに隙だらけだった。エルに向かって、ホムラは音を立てずに走り出した。 「誰がデコイをやるって言ったにゃ! ワガハイの強靭かつフカフカな肉球は刃物とは相性が悪ぃにゃほぁっ!? い、今モミアゲを持ってかれたにゃ! コレ死ヌマジ死ヌ助ケテほむほむぅ!」 「俺の名はホムラだと言ってるだろォ!」 助走をつけたハンマーのフルスイング、『グレーゾーンメガリス』がエルを真横から撃ち抜いた。 カグラしか見ていなかったエルは、まったく無防備にホムラが持つ最大威力の技を受けてしまった。鈍い打撃音と共に水平に吹っ飛び、床に突き立った剣を数本なぎ倒す。 『グレーゾーンメガリス』はあまりに大振りで隙だらけの技なので、普通のバトルで使用されることはほとんどない。ホムラが覚えている限り、公式ルールのバトルで使用したのは対戦相手が障害物に隠れて出てこなかった時に、その障害物ごと打ち砕いた一度きりだった。 稀に見るクリーンヒットの感触がホムラの両手に伝わる。ピッチャーが投げたストレートをフルスイングで返すような爽快感に、ホムラは顔に出すことなく酔い痴れた。 「ひぇ~ほむほむ超こえぇ~。今のはやりすぎにゃろ、正気に戻る前にジャンク屋行きになっちゃうにゃ。ほむほむは手加減ってものを知らにゃいのか」 「不要な心配だな」 ホムラは剣がなぎ倒されてできた道を走り出した。その先でエルは、カグラの予想に反して、剣を支えにして立ち上がった。 ハンマーが振り下ろされる瞬間、エルは髪を掠るギリギリのタイミングで床を転がることで逃れた。立て続けにホムラが踏みつけようとするのを再び転がって回避し、落ちていた剣を拾ってホムラから距離を取った。 剣を構えたエルは明らかに満身創痍だが、理性を失っているせいか、その戦意は衰えを見せない。 「神姫はあの程度で壊れるほどヤワじゃない。軽装の神姫とはいえ、一撃で沈めるのは不可能だな。しかし、コイツはあと弱パンチ一発といったところだが」 「パンチならワガハイの出番にゃ。見るにゃこの鍛え抜かれた肉球を。プニプニした感触から繰り出される百裂肉球はどんな神姫であろうと癒されるのにゃ」 「癒してどうする」 カグラがシャドーボクシングしながらエルの背後に回り、ホムラと挟み込んだ。 「行くにゃよネコ拳法――『にゃんぷしーろーる Ver.B!』」 「さっさと正気に戻れ――『パワフルメガマン!』」 ホムラは反対側から向かってくるカグラを巻き込むことにいささかの躊躇いもなかった。ウネウネとあまりにキモい動きで迫ってくるカグラが腹立たしかったのもあるが、カグラを気遣ったせいでエルまで仕留め損なっては挟み撃ちの意味が無い。 (神姫は頑丈だが……カグラなら少々壊れたくらいが丁度いいだろう) 柄を短く持つ手に力を込め、渾身の力で打ち出した。ハンマーの重量によりそれは破城槌となり、エルを目覚めさせる気付けの一撃となる。 「うおおおおおおおおおっ!」 「にゃにゃにゃにゃにゃっ!」 なる、はずだった。 「にゃぷぎゅっ!?」 カグラの豚を捻ったような声が聞こえるのと同時、ホムラの頬にプニッとした感触があった。カグラの肉球に殴られたのだ。 ハンマーを顔の中心にめり込ませているのは金髪の戦乙女ではなく、見慣れたケモテック製の猫だった。 エルは二人の間から姿を消していた。 「ワガハイ……こんな役ばっかり……にゃ(がくり)」 ホムラとカグラは長年一緒にいただけあって、息の合ったクロスカウンターは狂いなく互いに決まった。ホムラのハンマーはカグラを完璧に捉えて沈め、カグラの肉球はホムラを少しだけ癒したのだった。 ■キャラ紹介(8) コタマ 【ドールマスター爆誕】 「オイ、誰が3.5頭身の殺虫人形買って来いっつったよ」 十二体もの神姫を操るマシロを参考にして、コタマは自分では武装を身につけず、人形を操ることにしたのだ。 ただし、マシロのようにケンタウロスの胴体でデータ処理の容量を稼ぐことができないため、一度に操れる人形はコタマの両手でそれぞれ一体ずつが限度らしい。 その点については、「少数精鋭のほうがイイに決まってんだろ」とコタマに不満はないらしかった。 兄貴の武装神姫ストックに余りがなかっため、ベースとなる人形を近くのヨドマルカメラまで買いに走り、帰ってきたのがつい先程のこと。 ヨドマルに神姫を連れ込んではならないため、私が二体を適当に見繕ってきた。 でもコタマは私に感謝するどころか、箱に入ったホイホイさんを見るなり喧嘩腰で不満を垂れた。 「大学生にもなって読み書きもできねぇのか? どう見ても『武装神姫』じゃなくて『一撃殺虫!!ホイホイさん』って箱に書いてあるだろうが」 「だって、こっちのほうが可愛いやん」 「可愛いやん、じゃねぇよ! アタシの武装に可愛さとかいらねぇよ!」 「レラカムイからハーモニーグレイスに乗り換えて可愛げを無くしたんやから、せめて武器くらいは可愛くないといかんやろ」 「なんだその意味不明な理屈は! じゃあオマエはアレか、リクルートスーツがゴスロリドレスになっても文句言わねぇんだな?」 「やれやれ……コタマ、遊びとそうじゃないものの区別くらいつけんといかんよ」 「博多湾に沈めてやらぁ!!」 射場の順番待ちをしている間、コタマのことを背比に相談してみた。 背比は武装神姫を持っていないから、相談する相手を間違っているような気もするけど……相談ほど、話しかける口実に適したものはない。 背比は弓掛けをはめた手をニギニギしながら、たいして考えるでもなく答えた。 「そりゃあ、竹さんが悪い」 「なんでよ。だって武装神姫っていっても女の子なんよ。背比は知らんかもしらんけど、フリフリのドレスとか着た神姫もおるんやから。私のコタマだって傘姫が作った修道服着とるし。それやったら武器も可愛いほうがいいやん?」 「そうじゃないから、そのコタマと喧嘩したんだろ?」 そうだった。 またひとつ、背比に頭の悪いところを見せてしまった。 「ホイホイさん返品して、新しいの買い直したほうがいいんじゃないか? 竹さんだってその弓――」 背比が指さしたのは、私が高校の時から使っている『直心Ⅱ』だ。 手入れをあまりしなかったため、大きく歪んでしまっているが、今更ほかの弓を使う気にはなれない。 愛着以上に、この『直心Ⅱ』は弓の道を一緒に歩く相棒なのだ。 ……ああ、そういうことか。 「――を使うのを禁止されて、聞いたこともない弓を渡されたら、相手が範士の爺さんでもキレるだろ」 「うん、キレる。暴れる」 「俺だってキレる。武具ってのはそれくらい愛着がわきやすいものだぜ。だからさ、竹さんに考えがあったとしても、武装くらいはコタマの好きにさせてやろうぜ。ホイホイさん返品して、新しいの買ってやんなきゃな」 「あー……でも、買ってきたホイホイさん、もう兄貴が改造してしまったんよ。どうしよう、お金も無い」 「じゃあせめて、ホイホイさんの見た目とか性能くらいは好きにさせてやらないと」 背比からありがたく頂戴した提案は、今晩さっそく実行することにした。 クレイドルで不貞寝するシスターに、ホイホイさんの写真が載ったチラシとペンを渡した。 「んだよ、アタシは殺虫人形なんざ使わないからな」 「じゃあ、どうしたら使ってくれる?」 「ああ?」と私のことを睨みながらコタマは体を起こした。 その不満タラタラな顔にチラシとペンを突きつけた。 人形の買い直しがダメなら、せめてホイホイさんのデザインを、コタマの思い通りにさせる。 改造は兄貴にやってもらうとして、パーツが必要になれば、ホイホイさんを買ったお金の余りで補うし、それでもダメなら兄貴の持ってるパーツを貰うか、お父さんお母さんにお小遣いを前借りしてもらう。 この竹櫛鉄子、明日から日中の食事をチーズ蒸しパン一個で済ませる覚悟だ。 「いきなり素直になりやがったな。オイ、何を企んでやがる」 「なんも企んでないっての。ちょっと背比にアドバイス貰っただけ」 「またその背比かよ。オマエ、さっさと股開かねぇと他のアマに盗られるぜ」 「バカッ、そ、そんな下品なこと……でも、まだ傘姫とも付き合っとらんはずやし……もう少し仲良くなってからでも……」 葛藤する私を無視したコタマはチラシとペンを奪い取り、写真の中でポーズを取るホイホイさんにサラサラとペンを走らせ、デコレーションしていった。 「隆仁も言ってたけどよ、武装の有効距離を遠近どっちかに特化させちまったらつまんねぇだろ? バトルをジャンケンと勘違いしちゃいけねえ。遠くのカカシはブチ抜く、近くのネズミはブン殴る、ただそれだけだ。人間様と違ってアタシら神姫にはそれができる。唯一、人間様と同じデメリットの【身体は一人一つしかない】をアタシはクリアしちまったんだ。だったら話は簡単だぜ鉄子、コイツらの役割はもう決まったも同然だろ?」 好き勝手に書きすぎて、小学生の教科書の落書きのようになってしまったホイホイさんを、コタマはペンでコンコンと突いた。 一転して上機嫌になったコタマの笑みは、しばらく見ていないものだった。 「仮に名前でもつけとくか。近距離用の人形はファースト、遠距離用はセカンドな。ここからはオマエと隆仁の仕事だぜ。気合入れて、この設計図通りに仕上げてみせろよ」 次ページ『凶刃』 15cm程度の死闘トップへ